Chocolat
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「去年のバレンタインは実家にいただろ、そしたら楓が手作りのチョコくれてさぁ、嬉しかったなぁ。今年もくれるかなぁ」

二人揃ってのTV出演に向かう途中、再びバレンタインの話題になった。
虎徹の故郷のオリエンタルタウンとシュテルンビルトではバレンタインデーの過ごし方はかなり違うらしい。
こちらでは恋人とプレゼントを贈り合い、二人一緒に過ごすのが一般的だ。
勿論チョコレートをプレゼントすることもあるが、贈り物はチョコレートに限らない。
花束を贈ることもあるし、宝飾品など高価な贈り物をすることもある。
しかしオリエンタルタウンでは女性が男性にチョコレートを贈るのが一般的だという。さらにホワイトデーという男性から女性にクッキーやキャンディをお返しする行事もあるそうだ。
しかも、バレンタインは女性が男性に告白をする日でもあり、チョコレートも本命チョコ、義理チョコ、友チョコ、など様々な種類があるらしい。

「昼間、僕にくれたチョコレートは虎徹さんのお母様からのバレンタインプレゼントだったんですね」
「そうそ、バレンタインにはまだ日があるけど、おふくろってあんま細けぇこと気にしねぇから」
「しかし楓ちゃんとの連名ではなかった、と」
「そう!だから、楓からは別に届くと思うんだけどなァ」

愛娘からのチョコレートを期待して、虎徹はだらしなく鼻の下を伸ばした。
バレンタインデーにはレストランで二人で食事でも、なんてことは当然バーナビーも考えていて、実はもうレストランの予約は済ませている。あとは虎徹を誘うだけだった。
しかし隣でデレる虎徹を見て、バーナビーは自分も手作りのチョコレートをプレゼントしようと決意を固めた。
虎徹さんはどんなチョコレートが好きなんだろう。

「あっ!」

虎徹が突然声を上げたのでバーナビーの思考はそこで中断した。
隣の虎徹へと顔を向けると虎徹は少し視線を泳がせてから大きく息を吐き、それからようやくバーナビーへと背線を向けた。

「……あのさ、14日の夜って……予定、空いてる?」

虎徹からの質問にバーナビーは目を見開いて、ゆっくり瞬きをして、顔を伏せた。
予定なんて勿論空いてる、虎徹と過ごすために空けてあるのだから。
虎徹がレストランを予約してデートに誘ってくれるなんて、そんなことは似合わないと勝手に思い込んで自分でレストランを予約してしまったけれど、誘う前に誘われてしまった。
そのことが嬉しくてたまらなくて、……あぁ、どうしよう。
口元がにやけてしまって顔が上げられない。

「バーナビー?」

返事をしないバーナビーに虎徹が顔を寄せてくる気配がして、慌てて虎徹から顔を背けた。顔は伏せたままで口を開く。

「……空いてますよ」
「そっか」

虎徹が離れた気配にバーナビーはほっと息を吐き出した。
シートに背を沈ませて、虎徹もバーナビーから顔を背けて車窓からの景色へと視線を向ける。

「……じゃあ、そのまま予定空けといてくれ」

少し落ち着きを取り戻したバーナビーが虎徹へ視線を向けると、今度は虎徹の頬がなんとなく赤い気がした。
からかってみたくなって、バーナビーは口を開く。

「それは、デートの誘いですか?」
「で、デートって……」

虎徹の頬がいよいよ赤く染まる。しかし、バーナビーが追い打ちを掛ける前に虎徹が先手を打った。
後部座席で並んで座る、シートに投げ出されていたバーナビーの手を虎徹が握る。一瞬だけ力を込めて強く握った。

「……そうだよ、空けとけよ」
「わかり、ました……」

車中は当然二人きりなわけではない、目の前には車を運転するベン・ジャクソンの姿がある。
ミラー越しに視線が合いニカッと笑った彼に、虎徹は苦笑を返しハンチングを目深に被り直した。
彼は虎徹とバーナビーが仕事上のバディ以上の関係になったことを知る数少ない人間の一人だ。
様々な人種の人間が集まるシュテルンビルトでは人種差別もほとんど無く、同性愛に対する偏見もあまり無い。とはいえヒーローは人気商売だ、二人の関係を公にするわけにはいかない。
秘密を守るためには信頼できる身近な人間に事情を説明し、協力してもらったほうがいいとバーナビーに説得され何人かには打ち明け、今はそうしてよかったと思ってはいるが……しかし、旧知の相手にこういった事情を知られるというのはどうにも気恥ずかしいものだ。
それでも虎徹は、一度握ったバーナビーの手を離さなかった。
バーナビーも振り解いたりしなかったので、テレビ局に到着するまで二人の手は繋がれたままだった。



 
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