Chocolat
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It's a Wonderful Lifeの続編になります。
※It's〜は読んでいない、にょたは苦手!という方はこちらを読んで頂ければ話の流れが理解できるかと思います。





「おっはよーございまァす……」

遅刻ではない、しかし遅刻ギリギリの時間に顔を見せた虎徹に、経理のおばさんはチラリと冷たい視線を向け、何も言わずに仕事を再開させた。
もっと早く出社するように、との無言のプレッシャーは露とも気にせず、虎徹はバーナビーの隣の席へと腰掛ける。

「おはよ、バーナビー」
「おはようございます、虎徹さん」

穏やかな微笑みと共に挨拶を交わした。
以前と変わらぬ、しかし一年前には失われていた光景だ。
虎徹より30分早く出社しているバーナビーは既にデスクワークを終えていた。
そもそもヒーローであるバーナビーたちにデスクワークなどほとんどない。
ヒーロー事業部に所属しているため席はあるが、何事も無ければメールチェックやスケジュール確認、書類に目を通す程度しか仕事などない。
バーナビーは席を立ちコーヒーを煎れに向かった。自分のコーヒーを煎れるついでを装ってはいるが、バーナビーがコーヒーを煎れるのは虎徹のためだ。勿論、経理のおばさんの分のコーヒーも用意する。
バーナビーがコーヒーを手に席に戻ると、虎徹はパソコン画面でニュースを眺めていた。
バーナビーに気付くとニッと白い歯を見せて笑う。

「ありがとな、いっつも」
「いえ、ついでですから」

バーナビーの手からコーヒーを受け取り、虎徹は会話を続けた。

「もう2月か、早いよなァ」
「そうですね……」

バーナビーがヒーローに復帰して一ヶ月が過ぎた。
この一ヶ月は本当に慌ただしく過ぎ去っていった。
二部リーグではあったが、バーナビーが復帰したことによりタイガー&バーナビーとして再び活動することになった二人には取材が絶えない。最近ようやく落ち着いてきたところだ。
バーナビー単独の取材も多く、虎徹と楓と三人で遊園地へ行ったあの日以来、バーナビーにはオフらしいオフは一日もない。
虎徹はバーナビーの身体を心配したが、バーナビーは今が正念場だと思っていた。ゆっくり休んでなどいられない。

一年前、一連の事件の黒幕であったマーべリックは殺害され、事件の真相やウロボロスへの手がかりは闇の中へと消えた。
マーベリックの秘蔵っ子としてデビューしたバーナビーにも、当然疑惑の目は向けられた。
バーナビー自身もウロボロスの一員なのではないか、だからジェイク戦の時もバーナビーが勝利したのではないか。全ては仕組まれた茶番劇だったのではないか。あることないこと言い立てて、ゴシップ誌などを中心に一部のマスコミはバーナビーを非難した。
それだけではない。
マーベリックが陰で事件を起こし、それをヒーローたちが処理することでヒーローTVは成り立ってきたのではないか。ヒーローTVはやらせ番組だったのではないか。そんなことを言い出す者もいた。
実際、ヒーローTVにおいてやらせがあったことは否定できない。マーベリックが関与し番組を盛り上げるために事件を捏造したこともあるだろうし、公表はされていないがレジェンドの件もある。
しかし当然全ての事件がやらせだったわけではない。大多数の事件は実際に起こったもので、ヒーローたちは全力で街の平和を守ろうとしてきた。

紆余曲折あり、バーナビーやヒーローたち、ヒーローTVを取り巻く黒い疑惑はこの一年でようやく払拭され、今回バーナビーが復帰したことにより再びヒーロー人気も盛り上がりを見せている。
しかし、一度纏ってしまった黒い影は簡単に消えはしない。
影を消すには光が必要だ。バーナビーは自らがその光になろうとしていた。
ヒーローとしての職務は完璧にこなしつつ、ファンサービスも忘れない。
現在の状況は、二年前マーべリックにより親の敵だと信じ込まされたジェイクを倒した後のそれとよく似ている。
しかしそれに臨むバーナビーの心構えは全く異なる。
あの頃は自分の恩人だと信じ込んでいたマーべリックへの恩返しのため、ヒーロー界を盛り上げようとしていた。けれど今は、虎徹や仲間のヒーロー達のお陰で自分も大好きになれた”ヒーロー”という存在を守りたいのだ。
そのために、自分にできることならどんなことでもするつもりでいた。

「バニーちゃん」

最近はあまり呼ばれなくなったその呼び方に、バーナビーの肩はピクリと跳ねた。
けっして不快なわけではない、ただ驚いただけだ。

「……なんです?」
「おくち、あーんして」
「えっ……」
「ほら、あーん」

虎徹の勢いに呑まれ、つい口を開けてしまった。
カラフルな包装紙に包まれたその中身を口の中へ入れられる。キャンディかと思ったが、違った。
このドロリとした舌触りと濃厚な甘さ、これはチョコレートだ。

「ハハッ、うまいだろ」

チョコレートの甘さにバーナビーの眉間に刻まれていた深い縦皴が消え、口元が自然と綻んだ。

「どうしたんですか、このチョコレート」
「もらったんだよ、おふくろに。もうじきバレンタインだろ。毎年くれるんだよなァ」

まだ会話を続けようとした二人に聞こえるように、大きな咳払いが部屋に響いた。
経理のおばさんに睨まれて、二人は肩を竦めて口を噤んだ。






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