It's a Wonderful Life
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「っ……、虎徹さん、くるし……」

バーナビーに背中を叩かれて、虎徹は思い切りバーナビーを抱き締めてしまっていたことにようやく気が付いた。
慌てて腕を解く。

「悪い、苦しかっただろ」
「いえ、大丈夫です」

バーナビーと視線を絡ませて虎徹は柔らかく微笑んだ。
虎徹の微笑みの意味がわからなくて、バーナビーはまた不安そうに瞳を曇らせる。
そんな顔をさせたいわけじゃない、俺はバーナビーに笑っていてほしい。
無理に作った笑顔じゃなくて、心からの自然な笑顔で。

「バニーちゃん」
「はい」
「キスしていい?」
「……はい」

バーナビーをきちんとソファーに座らせて虎徹はバーナビーの向かいに立った。
腰をかがめて肩に手を置き、顎を掴んでバーナビーの顔を少し上に向かせる。
バーナビーは長い睫毛を伏せて瞼を閉じた。
まずは、唇に触れるだけのキスを。
それから頬に、瞼にそっと唇を落として、虎徹はバーナビーと鼻先をくっつけた。
伏せた瞼を開けたバーナビーと至近距離で見つめ合う。
近すぎて焦点が定まらないその距離のまま、虎徹はバーナビーの名前を呼んだ。

「なぁ、バニー」

何を言われるのかと、不安そうに瞳を揺らしながら見つめ返してくるバーナビーに、虎徹はそんな顔をするなよ、と言いかけてやめた。。
バーナビーを不安がらせているのは俺だ。
臆病な俺が、バーナビーの気持ちにちゃんと向き合わなかったから。
もういい加減、覚悟を決めよう。

「……今日も、明日も、明後日も、その先も、キスしていいか?」

告げられた思いがけない虎徹の言葉に、バーナビーは目を丸くして、みるみるうちにその瞳を潤ませた。
しっかりとメイクを施された目元は涙で濡れてマスカラが落ち、目の下のところが黒くなってしまっている。
虎徹は笑って、指先でバーナビーの目元を拭った。

「泣くなよ、バニー。せっかくの美人が台無しだぞ」
「だって……、……いいんですか?」

バーナビーの質問の意図が何を指しているのかわからなくて、虎徹は首をかしげた。

「なにが?」
「僕がこんな格好なのは、今夜までなんですよ?明日にはもう、元の僕の姿なんですよ?」

なんだ、そんなことか。

「わかってるよ、そんなの」
「男の体に戻ってしまうんですよ……、男の僕相手でも、いいんですか?」
「うん」

虎徹はためらいなく頷いた。

「お前こそ、いいのかよ」

虎徹は逆に尋ねる。

「何がです?」
「俺はもう、40手前のおっさんだぜ?10年後にはもう50だ。こんなオジサン相手でいいのかよ」

虎徹が自嘲を交えて本心を覗かせるとバーナビーはふわりと微笑んだ。

「なんだ、そんなことですか」
「そんなことって……」
「僕は気にしません。あなたの、笑うと目尻に浮かぶ皴も大好きだし、あなたの頭に白髪が出てきたって、あなたの腰が曲がっておじさんからおじいさんになったって、愛してます」

バーナビーの熱烈な告白に、虎徹は顔が熱くなった。

「おまえ……」

バーナビーは虎徹の首に腕を回して、虎徹の首筋に顔を埋めた。
胸一杯思いきり、大好きな相手の匂いを吸いこむ。

「虎徹さん、僕はね、あなたを好きだっていうだけで幸せです。人を好きになるのって、こんなにも幸せなことなんですね」
「バニー……」

虎徹に抱きついたまま、バーナビーは言葉を続ける。

「あなたと離れていたこの一年、あなたのことを忘れようと思って色々なことをしました」

バーナビーの独白に、虎徹はくすりと笑い声を洩らした。

「……俺のこと、忘れようとしたのかよ。ひどいな」
「だって、辛かったんですよ。……でも、できませんでした」
「どうして」
「……綺麗な物を見ても、虎徹さんにも見せてあげたいなって思ったり。おいしい物を食べても、虎徹さんにも食べさせてあげたいなって思ったり、それに」

そこまで聞いて、虎徹はますます顔が熱くなってきてバーナビーの言葉を遮った。

「……やっぱいい、もう十分だよ、バニー」



 
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