It's a Wonderful Life
当初の予定からだいぶ狂ってしまったが、虎徹たち三人はようやく目的の遊園地に到着した。
バーナビーも一緒に三人で、なんてどうなることかと思ったが、虎徹の運転で移動している最中、後部席に並んで座った二人は仲良くやっているようだった。
バーナビーの外見が女性だからだろうか、楓もいつもよりバーナビーに対し打ち解けているように見える。
親子、というには歳の近い二人は、まるで仲の良い姉妹のようだ。
楽しそうな愛娘と相棒の姿を見て、虎徹の表情も自然と緩んだ。
楽しい時間はあっという間というが、まさにそれだった。
園内で売られているポップコーンを食べながら歩き、アトラクションに乗り、キャラクターと写真を撮り、骨付きの肉を食べ、ショーを見て。
散々遊んで夜になると、バーナビーが予約をしてくれた園内のレストランで食事をした。
「つーか、昨日の今日でよく予約できたなあ」
ショーを見ながら食事ができ、キャラクターたちが席を回ってくれるというこのレストランは大変な人気のはずで、現に席は満席だった。
虎徹も楓のために予約を取ろうとしたが、既に満席で予約できなかったのだ。
虎徹の質問に、バーナビーは渋々口を開いた。
「……実は僕、ここの株を持っていて……両親のを引き継いだだけなんですけど。だから、融通がきくんです」
「ああ、なるほどね……」
やはり金の力なのか。
ヒーローなんてやっていても、所詮庶民な虎徹は少々やさぐれた気分になったが。
「……遊園地の株なんて、もしかして両親は僕を連れていく為に持っていたのかもしれません」
続いたバーナビーの言葉に、虎徹は己の心の狭さを悔いた。
結局、バーナビーは両親と遊園地に行くことは叶わなかったのだ。
バーナビーが都合の悪くなった両親の代わりに使用人のサマンサと二人で遊園地に行き、そしてその夜、あの忌まわしい事件が起きてしまった。
暗くなってしまった場を執り成すように、バーナビーは無理に笑顔を浮かべた。
「今日は本当に楽しかったです。誘ってくれてありがとう、楓ちゃん」
「そんなっ、私こそ、本当に楽しかったです!なんか、お母さんがいたらこんな感じなのかもって……」
ついうっかり口を滑らせてしまってから、楓はみるみる赤面し顔を両手で覆った。
「きゃあっ、ごめんなさいっ!お母さんだなんて……、バーナビーさんまだ若いのに」
キョトンとした顔をしていたバーナビーはゆっくりと瞬きをし、そしてふわりと笑った。
白い手を伸ばし、そっと楓の頭の上に置いて楓の髪を撫でる。
「嬉しいです。僕も、家族ってこんな感じなのかなって思いましたから……」
二人のやり取りを見ながら、虎徹はぽかんと口を開けたまま固まっていた。
今まで、考えたことがなかったわけじゃない。
友恵が亡くなってからも虎徹は友恵のことを愛していたし、再婚相手どころか特定の恋人だって作っていない。
だから、再婚して楓に新しい母親を、なんて到底無理な話なのだが、楓のためには母親は必要なんじゃないだろうか。
「……?どうかしましたか、虎徹さん」
バーナビーに声を掛けられて、虎徹はようやく我に返った。
「あ、あぁ……、ゴメン、ぼーっとしてたわ。いやぁ、おなか膨らんできたら眠くなっちゃって」
「もう、お父さんったら。ほら、ショーが始まるよ」
へらりと笑って、どうやら誤魔化せたようだ。
レストランのステージでは音楽とアナウンスが流れ、キャラクターたちがショーを繰り広げている。
ステージを楽しそうに見つめる楓を見て、ふとバーナビーにも視線を移すと、俺の視線に気付いてこちらを見たバーナビーと視線が合った。
バーナビーは俺を見て微笑んで、何も言わずにステージへと視線を戻した。
バニーは何も言わなかったけれど、”あなたの考えてることなんてお見通しですよ”そう言われている気がした。
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