It's a Wonderful Life
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今日は元々、虎徹は楓と二人でクリスマス休暇を楽しむ予定でいた。
ヒーローであることを娘にずっと隠してきた虎徹は、クリスマスもろくに娘と過ごしたことがない。年末は犯罪が激増する時期だ、虎徹に休みはなかった。
しかし、今年は二部リーグだしクリスマス休暇を取るくらいのゆとりはある。
楓にヒーローであることを打ち明け、二部リーグに復帰してから、楓は虎徹のよき理解者であり1番のファンとなってくれた。
急に事件が起きて楓との約束を守れないことになっても、楓は怒ったりせずに虎徹の背中を押してくれた。
そう、かつての友恵のように。
虎徹はそんな楓に恩返しがしたかった。

急に予定が変わったのは昨夜のことだ。
バーナビーが一年ぶりに現れ、一緒に事件を解決し、潰してしまった車の賠償金をどちらが負うか口論となり、その後、思い切り笑った。
腹がよじれるくらい、二人で笑った。
何が面白かった、とかじゃない。
二人でヒーローをすることが、嬉しくて、楽しくて。
俺達は涙が出るくらいまで笑って、抱き合った。
いい気分で、そのまま二人で飲みにでも行きたい気分だった、しかし絶妙なタイミングで虎徹の携帯が鳴った。
電話の相手は、愛娘の楓だった。

「あ、もしもし、お父さん?明日、朝9時に着くから」

それでようやく、バーナビーとの再会で浮かれていた虎徹は楓との大切な約束を思い出したのだった。

「あー……、うん。朝9時ね、わかった、わかった」

約束を忘れかけていたことを何とか押し隠し返事をする。
隣にいたバーナビーが、娘さんですか?と聞いて来たので俺は頷いた。

「ちょっと、貸して下さい」
「え?」

”ちょっと〜、お父さん?”
受話器の向こうから楓の不満そうな声が聴こえる。
バーナビーは虎徹の手からするりと携帯を取り上げて、そのまま電話に出た。

「こんばんは、バーナビーです」

何が、こんばんは、だ。対マスコミ、対ファンサービス用の甘い声を出すバーナビーに虎徹の眉間に深い皺が寄る。
俺が楓と電話してたんだ、返せ。
そうバーナビーに詰め寄ろうかと思ったが、止めた。
楓はバーナビーのファンなのだ。ここで電話を中断させたりしたら楓はとても怒るだろう。
バーナビーと話しをさせてやった方が俺の株も上がるってもんだ。
虎徹はバーナビーと愛娘の電話が終わるのを辛抱強く待つことにした。
途中ネイサンやアントニオに話し掛けられたせいで二人の会話の内容はよく聞き取れなかったが、しばらくしてバーナビーから電話を返された。
画面を見ると通話は終了されている。

「おまっ、勝手に切るなよ」
「向こうから切ったんですよ、用事は済んだからって」

折角の愛娘からの電話だったのだ、おやすみの挨拶くらいしたかった。
虎徹が掛け直そうとするとしれっとした顔でバーナビーが言う。

「掛けても出ないと思います。お風呂入るって言ってましたから」
「な……」
「あと、明日僕も一緒に行くことになりましたので」
「え……?」

話の展開についていけない。
バーナビーに順を追って説明してもらうと、つまりはこういうことだった。
俺と楓は明日、遊園地に行く予定だった。
楓からそのことを聞き、バーナビーがもう何年も遊園地に行ったことがないという話をすると、楓の方から一緒に行こうと提案されたという。
さらに、朝虎徹が駅まで楓を迎えに行く予定だったが、タクシーで虎徹のアパートまで向かう、とのこと。
昨日の今日でバーナビーが駅に現れたりしたらファンに囲まれて大変でしょ、ということで。

「て、それおまえ、遊園地なんて行って平気なの?」

こういう時、顔が割れているヒーローは大変だ。
人混みになんて現れたら、たちまちファンに囲まれてしまう。

「大丈夫ですよ、あそこではキャラクターたちがアイドルなわけですし。何なら変装して行きます」
「変装って……」



 
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