Catch me if you can.
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さあ、どう切り返そうか。
俺はそんなに駆け引きが上手くない。自覚はあるけど、それでいいと思ってるから上手くもならない。
だから素直に思ってるまま返すことにした。

「金持ちそうだなって」
「……君、面白いね」

男はフフッと声を出して笑った。

「金は無いよりある方がいい。俺はいつも懐が寂しいからさ」

虎徹はカウンターに両肘を付き、やや姿勢を前へと崩して相手の顔を下から見上げた。
虎徹はもう若くはないが、それでも相手の男は虎徹より一回り以上は上だ。少しくらい甘える仕種を見せたっていいだろう。

「……僕は、ゲイじゃない」
「知ってる。でも、男もイケるんだろ。俺も」

俺は左手を前に翳し、薬指の指輪を相手へと示した。

「結婚してた。今はもう、いないけど」

そうか、と言ったきり、男はそれ以上深くは追及してこなかった。俺も湿っぽい話しがしたいわけじゃない。
ワンナイト・ラブの相手が欲しいだけだ。

「俺だって、女は好きだよ。けど、女は金が掛かる」

女が相手だと、酒を奢ったり、ホテル代も大体男持ちになる。
それも結構な負担だが、大体の女はこちらの連絡先を知りたがり一度きりの関係になるのを渋る。
一度きりと割り切って寝てくれる、そういったことを商売にしている女性もいるけれど、虎徹はそういった女性を買いたいとは思わなかった。
寝るなら若くて綺麗な女がいいけれど、そういう女は目茶苦茶高い。
常に賠償金の支払いに追われている虎徹には、とても支払える額ではない。
そんな時に覚えたのが、男相手の遊びだった。

「そうだな。……それに、女はいろいろと面倒だ」

虎徹の意見に同調し、男は目を細めた。

「僕には妻がいる。性生活はないけれど、今もそれなりに仲良くやっているよ」

虎徹はただ、頷いた。

「だから、もしもの時のことを考えると男の方が都合がいい。できればスーツ姿の。仕事の相手だとごまかせるからね」

そこで、虎徹は改めて自分の服装に視線を向けた。
シャツにベストにハンチング。とてもビジネスマンには見えない。
虎徹は苦笑を漏らした。

「俺のこと、好みじゃないって……服装の問題?」
「まぁね、でも、もう少し若い方が好みかな」

虎徹の苦笑がさらに色濃くなる。

「……ぜーたく。あんたに比べたら、俺だって十分に若いよ」

虎徹の見た目は、実際の年齢よりかなり若い。日系人は若く見られるのだ。とても30代半ばには見えないだろう。
その虎徹より若い、ということは20代の若者がいい、ということか。

「言ったでしょ、僕はゲイじゃないって。だから出来るだけ若くて、線が細いコが好みなの。勿論、その歳の差の分はお小遣渡すけどね」
「……だったら、最初から売り専のとこ行けばいいじゃん」

この街には売り専と呼ばれる男たちがいる。男を相手に春を売る男たち。
若い奴が多くて、中にはアイドルみたいな綺麗な顔した奴もいる。

「最初のうちはね、買ったこともあるよ。けど、その時知り合った子がこの店を教えてくれてね。それからはここで物色してる」

男は、店内にいる男たちへと視線を向けた。俺も釣られて視線を向ける。
すると、黒いスーツ姿の男が店内に入ってくるのが視界に入った。
丁度いい、俺は席を立ちその男に近付いた。



 
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