Catch me if you can.
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12


※虎徹がアポロンメディアに移籍する前の冬辺りのお話です
※つまりバニーには出会ってないし出てきません
※『明るいモブ虎』目指してますので痛いとか可哀相な表現はありません





今日も虎徹の活躍の機会は無く、獲得ポイントはゼロポイントに終わった。増えたのは賠償金のみ。
仕事を終え、いつもの店で一杯引っ掛けて帰ろうと夜の街を歩いた。
12月の夜の街はクリスマスムード一色で、街路樹には電飾が施されキラキラと輝いている。
週末ということもあり、腕を組んで歩くカップルの姿が目に付いて虎徹は深い溜息を吐いた。
俺だって、誰かと腕を組んで街を歩きたい。できれば、友恵と二人で。
しかしそれは叶わぬ願いだ。妻はもうこの世にはいない。
妻を亡くしてから、虎徹は恋人を持ったことがなかった。
NEXTというこの体質や、ヒーローという職業に理解を持ってくれるような相手とは、そう簡単に巡り会えるわけがない。
一度だけ少し深い仲になった女性もいた。しかし、虎徹がNEXTだということを打ち明けるといつの間にか疎遠になった。
ヒーローが活躍しているこの街でも、NEXT差別はある。
NEXTというだけで疎まれることもある、そんなことは子供の時から嫌というほど理解していた。
以来、虎徹は恋人を持つことを諦めてしまった。
それでも、どうしても人肌恋しくなることはあるわけで。

「……久し振りに行ってみるか」

いつもの店に行くのを止めて、通りでタクシーを拾うことにした。
運転手に行き先を告げて後部席のシートにもたれ、窓の外を流れていく光りの筋に視線を向ける。
虎徹を乗せたタクシーはファッションビルやブランドショップが立ち並ぶ華やかな通りを抜け、雑居ビルがひしめき合うエリアで虎徹を降ろした。
冬だというのに、相変わらず通りには陽気に酒を飲み交わす人々が溢れていて、活気に溢れている。
少し普通と違うのは、やたら男性の姿が多く、女性の姿はまばらだということくらいだ。
タクシーを降りると、真っ直ぐに目的の店を目指した。雑居ビルの一角にある、こじんまりとしたバーだ。
店の看板に明かりが灯っているのを確かめると階段を昇った。

「あら、あらァ?久し振りね、コテツちゃん」
「……久し振り。俺のボトル、まだある?」

ドアを開けるとカウンターの中にいるママに声を掛けられた。ママと言ってもれっきとした男性だ。
坊主頭にボディピに埋め尽くされた耳、顔面にも眉に唇とピアスだらけだ。腕はタトゥーで黒々としてるし、一度見せて貰ったけど舌の先なんて二つに割れてる。
俺はカウンターに腰掛けていた何人かの先客に軽く会釈をして、空いている席へと腰を降ろした。
店のドアを開けた瞬間、全員の視線が俺へと向けられた。
すぐに視線を反らす者もいれば、笑みを向けてきた奴もいた。
俺は品定めされたのだ。ここは、そういう店だ。
俺だって店に入った瞬間、素早く全員をチェックした。正直、そんなに期待しちゃいなかった。
俺はこの店に、そういう気分の時しか来ないけど、来たからといって毎回いい相手に巡り会えるわけじゃない。
いい相手がいればいいし、いなけりゃ楽しく酒が飲めればそれでいい。
俺はこの店のママも、この店に来る客層もわりと気に入っている。
だけど今日は、気になる男が一人いた。カウンターの一番端で一人でグラスを傾けている奴だ。
俺を見て、すぐ興味なさ気に視線を反らしやがった。
男の左手の薬指には鈍い光りを放つ指輪が絡まっていた。
既婚者か、もしくは誰とも深い仲になるつもりはないという虫避けの意味かはわからない。
俺は自分の左手へと視線を向けた。鈍く光るシルバーのリングがそこにある。
俺も、指輪を外すつもりはない。




[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -