イサン・シーモアの憂鬱
1.2.3


ものの15分ほどでバーナビーはやって来た。
彼がラウンジに現れると、まるでそこだけスポットライトで照らされたようだった。
バーナビーには生まれながらに華がある。
髪は束ね、服装も落ち着いた色合いのスーツ姿だったが、変装できているとは言い難い。
平日ということもあり、客は少なかったがそれでも周囲からの視線を感じた。
ここでプライベートな話題を出すのはまずいだろう。どこのゴシップ誌に情報が流れるかわからない。

「早かったわね」
「ちょうど、すぐ近くにいたんですよ」

バーナビーが近寄ってくるとネイサンは席を立った。

「奥に移動しましょ。VIPルームがあるの」

このホテルはネイサンの所有するホテルの一つだ。
当然従業員はネイサンがオーナーだと認識していて、ネイサンが立ち上がると速やかにVIPルームへと二人を案内した。
皮張りのソファーへと腰を落ち着けて二人きりになると、ネイサンはグロスの塗られた肉厚な唇を三日月形にさせて微笑んだ。

「ハンサムから恋バナが聞けるだなんて光栄だわァ。私でよければ力になるわよ」





それが一ヶ月程前の話。





今日、ここシュテルンビルトでは特に事件も起こらず、ヒーロー達は平和に一日を終えようとしていた。
バーナビーもトレーニングルームで一通りのメニューをこなし汗を流し、シャワーを済ませて後は帰宅するだけだった。
帰り支度をしていると、仕事上のパートナーであり、今では晴れて恋人となった虎徹の姿を見つけ、バーナビーはにこやかに声を掛けた。

「おじさん、今日はこれで上がりですよね?今夜、飲みに行きませんか?」
「お、別にいいけど……」

虎徹がそう返事をした時だった、バーナビーの背後からコツコツとヒールの音を響かせてネイサンが現れたのだ。
ネイサンはガシッとバーナビーの腕を掴むとニコリと虎徹に微笑んだ。

「ごめんねぇ。ちょっと私の方が先約なのよ。ハンサム借りるわよ」
「あの、ちょっと‥」

バーナビーが抗議の視線を送ると、ネイサンはキュッとバーナビーの尻を捻りドスのきいた低音で囁いた。

「自分ばっかいい思いして。犯すぞクソガキ」
「……すみません。約束を忘れていたみたいで」
「あ、ああ……、うん、そっか。またな、バニー」

ひらひらと手を振る虎徹を残して、バーナビーはネイサンに連行されていった。

ネイサンに引きずられるようにしてバーナビーが連れて来られたのは、前回待ち合わせたのと同じホテルだ。
客席の間を素通りし、奥のVIPルームへと向かうとネイサンはソファーの真ん中にどかりと腰を落ち着けた。ネイサンの向かいへとバーナビーも腰掛ける。

「あんた、アタシとの約束、忘れたわけじゃないわよね?」

グラスの酒で唇を湿らせたネイサンは開口一番そう口にした。

「勿論、覚えてますよ」

約束というのは、ネイサンとアントニオの仲を取り持って欲しい、という話だ。

「何よ、自分ばっかり幸せそうにしちゃって」

『薬でも盛って押し倒しちゃえば?』

ネイサンのアドバイスに従って実行に移し、バーナビーはめでたく虎徹と結ばれた。
仕事が忙しく、なかなか二人きりの時間は作れないが、それでもうまくやっている。
今日は折角二人の時間が作れそうだったのに、とバーナビーは溜息を吐いた。

「僕にくれた薬、あれ使えばいいじゃないですか」
「前使ったのよ、でも失敗しちゃって、それから警戒が強くてなかなか二人きりになれないのよ」

ネイサンの言葉にバーナビーは目を見開いた。

「失敗って、失敗した手段を僕に薦めたんですか?」
「いいじゃない、結果的にうまくいったんだから」
「そうですけど……」

バーナビーは深い溜息を吐き出した。



 
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