イサン・シーモアの憂鬱
1.2.3


There is no one but you.と連動していますが単体でも読めるはずです。
※虎兎ですが虎兎表現はほぼ出て来ない予定。あくまで主役は炎牛です。
※虎や兎は出てきます。





シュテルンビルト五つ星ホテルのひとつ、その最上階にあるラウンジで窓際のカウンター席に腰掛けるひとつの人影があった。
塵ひとつなく綺麗に磨かれたガラス窓からは、百万ドルの夜景と呼ばれるシュテルンビルトの見事なネオンの海を一望できる。
キラキラと輝く夜景を眺めながら、彼、いや、彼女?は大きな溜息を吐き出した。

「はぁ〜〜」

ネイサンは悩んでいた。
ヒーローとして活躍しながら、一代で築き上げたヘリオスエナジーも軌道に乗っている。
富も名声も、地位も名誉も手に入れて、何もかも満たされているはずなのに何かが足りない。
何が自分に足りないのか、そんなことはわかっていた。

愛だ。
愛が足りない。

ネイサンはもう長いこと、恋などしたことがなかった。
若い頃は本気で恋をしたこともあった。
しかしネイサンの恋は、ノンケの男ばかりを好きになるその性癖ゆえに叶わぬことばかりで、いつしかネイサンは本気で恋をすることを諦めてしまった。
それからはヒーロー業に社長業にと必死になった。恋愛をする暇もないほど躍起になった。
そうして今日の地位を確立できたわけだが、全てが軌道に乗り安定している今、ネイサンは久しぶりに思ったのだった。
恋をしたいなあ、と。
ネイサンにそう思わせたのは、バーナビーの存在もまた大きかった。
若い彼は本気で恋をしていた。相手はあのタイガーだ。
傍から見ているとタイガーの方も、バーナビーに好意を寄せられることがまんざらでもないようだった。
もしかしたら二人はうまくいくのかもしれない。
バーナビーのことが羨ましかった。
わたしだって恋がしたい。
誰かいないだろうか。忘れてしまった自分の恋心を再び燃え上がらせてくれるような、そんな男。
ネイサンは自分の身近にいる人間の顔を順に脳裏に思い浮かべてみた。
まずタイガーとバーナビーは除外する。折紙もかわいいけれど、若すぎるし恋愛対象としては見れない。
となると、やはり残るはロックバイソンしかいないのだった。

「アントニオ・ロペス……」

それが彼の本当の名だ。
ネイサンは常日頃、彼にセクハラめいたことを仕掛けているけれど、実のところ彼を好きかと聞かれたらYESだが、愛してるかと問われれば答えはNOだ。
セックスしてみたいかと言われたらYES。
ネイサンにとってロックバイソンはそういう存在だった。
昔、一度本当に寝てみようとしたこともある。
飲みに誘って、部屋に連れ込んだまではよかった。
一服盛って、さあこれからお楽しみ、というときに彼は能力を発動した。硬くなるという厄介な能力。
ネイサンは犯したい側の人間だった。
柔らかく弾力のある筋肉を舐め回すように愛撫するのが好きだ。
そうして鍛え貫かれた尻肉を割り、ぶち込んで、快楽で何も考えられないくらいグチャグチャのドロドロになるまで犯して犯して犯しまくってやりたい。
なのに、だ。
彼は岩のように硬くなってしまった。
ネイサンが何をしても全く反応がない。
もう興ざめだった。
やがて薬が切れた彼はネイサンを一発殴り、そのまま帰って行った。
彼とのことはそれっきりだ。
そんなことがあった後、流石にしばらくはぎこちなかったが、ネイサンは以前と何も変わらぬ態度で接していたので彼の方も徐々に元へと戻っていった。
ただ、ネイサンが飲みに誘っても二人きりでは応じてくれなくなったが。

「どうしようかしら‥」

もう一度、彼と二人きりになる機会が作れないだろうか。
一度身体を合わせてみれば、そうすれば何かが変わるような気がする。
ネイサンがセックスにこだわるのには理由があった。
彼がストレートだからだ。
ストレートな男を落とすには、正攻法でいっても勝ち目がない。
たとえば、折紙のような整っていて小柄な外見ならば正攻法でも落とせるかもしれないが、自分のような外見では無理だ。
てっとり早く、身体から落とすしかない。
男同士でのセックスが女性とのセックスの快楽となんら変わらない、もしくはそれ以上に気持ちがいいものだと教えてやるのだ。
そうして相手を自分とのセックスに溺れさせ、夢中にさせる。
ネイサンにはそれしか手立てがなかった。

と、その時。
マナーモードにしておいた携帯が震え出した。
画面を見れば、バーナビーからのメールだった。

『突然すみません。相談に乗って頂きたいことがあるのですが、今夜、お時間ありませんか?』

自分に相談とは何だろうか。まさかね、と思いながらカマを掛けてみることにする。

『もしかして、恋愛相談?』

すぐに返事が来る。

『気付いてましたか、さすがですね。はい、恋愛相談です』

あらやだ、どうしよう。まさか本当に恋愛相談だとは。
顔がにやけるのを抑えられず、ネイサンの口角はキュッと上がった。
手早く今いるホテルの名前をメールで送信する。

『○×ホテルのラウンジで待ってるわ』




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