MISS BUNNY
虎兎/1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14



その日、バーナビーは元に戻るまで自宅待機を命じられ、虎徹だけが出勤した。
ジャスティスタワーのトレーニングルームに向かう途中、虎徹はネイサンと出会った。
ネイサンは二人の仲を知る唯一の相手で、度々相談相手にもなってもらっている。

「で、どうなの?ハンサムは」

ネイサンの言葉に昨夜の情事の様子を思い出し、虎徹の目尻が下がった。

「やー、かわいいよ?巨乳だし!」
「やだっ!ハンサムが巨乳だなんて」

ややオーバーアクション気味に引いてみせたネイサンだが、すぐ穏やかな表情へと切り替える。

「でも、よかったじゃない。体が女の子になっちゃった以外は異常はないんでしょ?」
「あぁ、昨日一通り検査受けたけど、大丈夫らしい」

不幸中の幸いというべきか、性別を変えられた以外には怪我もなく、異常は見つからなかった。
だからこそ昨夜、あんなことやこんなことをしてしまったわけだが。
虎徹が昨夜のことを思い出しニヤついていると、何やら思案していたネイサンが口を開いた。

「……あと何時間かしたら元に戻っちゃうのよねー、…いいの?」
「へっ?なにが?」

質問の意図が分からず虎徹が問い返すと、ネイサンは少し言いづらそうに口にした。

「アンタ、元々ノンケなんだし、ハンサムが元に戻っちゃうの淋しくなぁい?」

しかしネイサンの心配をよそに、虎徹は後頭部をガシガシとやりながら笑ってみせた。

「あー、けど俺、アイツのこと好きだし。男とか女とか、そんなん関係ねーよ」

バーナビーに好きだと言われ、最初のうちはのらりくらりとかわしていた。
しかし一緒にいるうちに、自分もそうかもしれないと気付き、随分と戸惑ったものだった。
性別なんてどうでもいい。そんな考えに至るまでには随分と悩んだものだが、今はとっくに振り切れている。

「あーあ、もうっ、アンタたちほんとバカップルよねっ!」


しかし、予想外の事態が発生した。
夜になっても、翌日になっても、バーナビーは元に戻らなかった。


そして三日が過ぎた夜。

「なー、あいつ絶対おかしい。メール今日何回来たと思う?69回だぜ?すぐ返事しねーと電話してくるし」

虎徹はすっかり参っていた。バーナビーの様子が明らかにおかしいのだ。
あれから毎晩、虎徹はバーナビーの部屋に泊まっていた。
あの姿では外出もできないし、食事にも困るだろうからバーナビーの面倒をみるようにと会社命令も受けていた。
しかし、そんな命令がなくてもほっとけなかっただろう。
だが、虎徹はもう限界だった。
仕事後、バーナビーの部屋に直行する気分になれず、一杯だけとネイサンを飲みに誘った。

「あら、69なんていい数字じゃない」

いつもの調子で軽く返したが、ネイサンの目にも虎徹の憔悴ぶりは明らかだった。
だからこそこうして虎徹の誘いにも乗ったのだ。

「よくねーよ!あ、またメール来た」

ぽちぽちとメールを返す虎徹の姿はすっかり恐妻家のようである。

「あんた、巨乳でかわいいなんて言ってたじゃない」

メールを打ち終えた携帯を乱暴にテーブルの上に置き虎徹が吠えた。

「そーだけど!やっぱいつものアイツがいいって。やたら甘えてくるし、可愛いっちゃ可愛いけど、人の携帯勝手に見るし、登録してある女の連絡先全部消されたし。アニエスやブルーローズまでだぜ?」
「あら、じゃ、私も?」
「いや、お前は消されてない」
「なんでよっ!」

実はネイサンはバーナビーからも相談を受けていた。虎徹は女性の身体の方が好きなのではないか、自分はこのまま、女性のままでいた方がいいのではないかと。

「あんたたち、ホント、めんどくさいわね」

「へ?」

ネイサンはグイッとグラスを傾け中身を飲み干すと、代金をテーブルに置き立ち上がった。

「ちゃんと本人に言ってあげなさい。男だとか、女だとか関係なく好きだって」
「えっ……、けど、今更」

虎徹の言葉を遮り、ネイサンは忠告した。

「言うのよ。ハンサムが元に戻らないの、アンタのせいかもしれないわよ」



 
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