Rain stops and a rainbow comes out.
1.2.3.4.5.6.7.8


今日もまた、ここへ来てしまった。
応答があるはずのないドアの前で、僕はチャイムを鳴らすこともなく、ただ佇み途方に暮れる。
彼はもう、ここにはいないのだ。

外は生憎の天気で、土砂降りの雨が降っていた。
バーナビーは傘を持っていなかったが、雨の中を歩き出した。

「おい、バニー?どーしたんだよ、お前。ずぶ濡れで」

通りを歩いていると、今一番逢いたいと思っていた人の声が聴こえた。
僕は本当におかしくなってしまったんだろうか、ついに幻聴まで聴こえるようになったらしい。
僕はその声を無視した。

「おいっ!聴こえてんだろ、待てよ」

今度は声だけではない、後ろから腕を引かれた。

「……虎徹、さん?」
「そーだよ、俺だよ」
「どーして……、実家に戻ったんじゃ」





あの後。
マーベリックが拘束され、移送中にルナティックにより殺められてしまったあの後。
虎徹は宣言通りヒーローを引退し、同時にバーナビーもヒーローを辞めた。
虎徹は実家へと戻り、バーナビーは以前と同じ一人での生活に戻った。


否。以前とは違う。


父親のように慕っていたマーベリックが実は、バーナビーの両親を殺した犯人だということを知った。
両親が亡くなった後も連絡を取り合い、母のように慕っていたサマンサもマーベリックにより殺められた。
ずっと一人で、両親の復讐のことだけを考えて生きてきたそんな僕にも、親代わりと呼べる人たちがいたのだ。
しかし、彼等は失われてしまった。

それだけではない。
僕は、虎徹さんに出会って知ってしまったのだ。
いつも隣に居てくれる人の温かさを。
虎徹さんがいなければ僕は、次々と起こったショッキングな出来事を受け止めることができなかったろう。
僕が正気でいられたのは、虎徹さんが僕の怒りや苦しみを分かち合い、共に闘ってくれたからだ。





「いや、一度帰ってたんだけど、実はまだ荷造りが終わってなくて…、て、んなことより」

強く腕を引かれ、気付けば僕は虎徹さんの差す傘の下にいた。

「傘も差さずにどーしたんだよ、風邪ひくぞ」

男二人で差すには傘は小さく、雨に濡れたバーナビーの身体が虎徹の服も濡らしたが、虎徹は気に気にしていないようだった。
バーナビーが返事をせずにいると、虎徹の手が無遠慮にバーナビーの頬に触れた。

「お前、すげー冷えてんじゃねーか。もう、家寄ってけ」

これは夢なんじゃないだろうか。
僕があまりにも虎徹さんに会いたいと思っていたから、幻覚を見ているのではないだろうか。
けれど、幻覚にしては虎徹さんの手が温かい。
それに、ああ、この匂いは虎徹さんの匂いだ。
バーナビーは虎徹の匂いに誘われるように、その肩に顔を埋めた。

「ちょっ、バニー?具合でも悪いのか?」

実際、バーナビーの顔色は酷く悪かった。
元々色白なバーナビーだが顔色は紙のように白く、唇は雨に濡れ冷えたせいかもしれないが紫色だ。

「家まで歩けるか?すぐそこだから」

虎徹はバーナビーの腕を自分の肩に掛け、引きずるように歩き出した。




[戻る]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -