MISS TIGER
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「あの、虎徹さん」
「何だよ、バニー。送るって、本当に送ってくだけのつもりだったの?」
「……いいんですか?」
「いいも何も、寄ってけよ」

虎徹は躊躇うバーナビーの腕を引き、半ば強引に部屋へと招き入れた。




今日虎徹たちヒーローが追っていた犯罪者は、自分だけでなく、相手の性別も操作できる能力を持つNEXTだった。
虎徹とバーナビーが犯人を追っている時、バーナビーを庇って虎徹が犯人からの攻撃を受けた。
体型に合わせて作られているヒーロースーツは、虎徹が女性の身体に変えられ普段より小柄になってしまった為サイズが合わなくなってしまった。
身動きが取れなくなった虎徹のことはバーナビーが三度目となるお姫様抱っこで救出し、犯人はドラゴンキッドやスカイハイらの活躍で無事捕まえることができた。
しかし問題なのはその後だった。
女性化してしまった虎徹が元に戻るには24時間かかるらしく、能力者本人にも解除できず時間が経つのを待つしかないらしい。

「送っていきますよ」
  
バーナビーの申し出を、虎徹は『送り狼になったりしてー』などと茶化しながらも受け入れた。
元々家まで送ってもらうのは二人が付き合いだしてから珍しいことでもない。バーナビーは意外と世話焼きで優しいのだ。
もっとも、虎徹はバーナビーが送り狼になったって全く構わなかった。
折角女の身体になったのだからそういうことに興味はあるし、その相手はパートナーであり恋人であるバーナビーがいい。

一方、シャツにベストにパンツ、といういつも通りのスタイルの虎徹を、バーナビーは直視することができなかった。
いつも通りのスタイルだが、いつもと違い服が身体より大きく布が余っている。
そのくせ、ベストの1番上のボタンははち切れそうにきつそうだ。
戸惑うバーナビーに構わず、虎徹はいつもと変わらぬ様子で部屋のソファへと腰掛け、ベストのボタンへと手をかけた。

「あっ!」

虎徹が驚いた声を上げ、バーナビーはその声で我に返った。慌てて虎徹へと近寄る。

「どうしたんです?」
「ボタン、取れちゃった」

バーナビーの口から思わず溜息が漏れる。溜息をつきながらも虎徹から取れてしまったボタンを受け取った。

「……僕が付けてあげますよ」
「マジ?サンキュー、バニー。きついの無理に締めてたからかなあ」

邪気のない笑顔を浮かべ、バーナビーに向かって微笑むと、虎徹は残りのボタンを外しベストを脱いだ。ソファの上に無造作に置くとそのベストをバーナビーが拾い上げ、どこからか簡易な裁縫キットを取り出してボタンを付け始めた。

「なんで無理に締めたりするんですか、全く、あなたって人は」

理不尽なバーナビーの問い掛けに虎徹はネクタイを外しつつ唇を尖らせる。

「だって、バニーがベスト着ないと乳首が浮いて見えるって言うから」
「見せたくなかったんですよ、他の人に」

最初、虎徹はベストがきついと言ってシャツだけで帰ろうとしていた。しかしすれ違う人の虎徹の胸元への視線に気付いたバーナビーが、ベストを着るよう強要したのだった。

「あれ?それってヤキモチ?」
「そうですよ、いけませんか」

バーナビーの目許が僅かに赤く染まったのを虎徹は見逃さなかった。

「いんや、すっげー嬉しいかも」

虎徹の満面の笑みに、バーナビーの目許の赤みが増した。
ボタンを付け終えたベストを几帳面に畳みソファの端へと置く。その上にやはり無造作に投げ捨てられたネクタイを拾い畳んで置いた。
照れ隠しか平静を装って振る舞うバーナビーに、虎徹はニヤニヤとした笑みを抑えることができない。

「バニーちゃん」
「なんです?」

すっかりポーカーフェースに戻ったその顔を崩したくて、虎徹は悪戯を仕掛ける。
シャツのボタンを上から順に一つずつ、ゆっくりと外していく。胸元の深い谷間がきっちり見える所まで外すと上目遣いでバーナビーを見つめた。

「俺の裸、見たくない?」

ごくり、とバーナビーの喉が動く。

「それとも、女の俺には興味ない、とか?」

バーナビーは眼鏡を外すと机の上に置いた。上着を脱ぎ、先程虎徹のベストを畳んだのに比べればやや乱雑に畳みソファへと置くと虎徹の前へと進む。

「どんな姿でも虎徹さんは虎徹さんですし、今のあなたも十分魅力的ですよ」

身体を屈め、ゆっくりとバーナビーの顔が近付いてくる気配を感じながら、虎徹は瞼を閉じた。




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