The die is cast.
兎→虎




「虎徹さん、飲みに行きませんか」

珍しくバニーから誘われた。
もうこうして、こいつと飲みに行くことなんて最後になるかもしれない。
バーナビーからの申し出を虎徹は二つ返事で受け入れた。


その夜、バーナビーは珍しく酔い潰れた。
一人ではろくに歩けない様子のバーナビーを見るに見兼ねて仕方なく、虎徹は家まで送ってやることにした。
部屋に入り、リビングの椅子へと座らせる。

「ほら、しっかりしろ。らしくねーぞ、キングオブヒーロー」

俺はくしゃりと、バニーの髪を撫でた。


本当に、らしくない。
店で飲んでいる間は他愛ない話しかしなかった。
久しぶりの実家はどうだった、とか、娘がNEXTかもしれない、とか。
俺の能力減退の話はまだしていない。
ヒーローを辞めて実家に戻るつもりだ、ということもまだ告げていない。
バニーには話さなければならないとはわかっていた。
けれど、ついつい言い出せなくて先伸ばしにしてしまって、今夜こそ話せれば、と思っていたのだが先にバニーが酔い潰れてしまって言えなかった。
親の敵を討って、キングオブヒーローとなって立派にやってるこいつにも、悩み事やら辛いことがあるのかもしれない。
だったら、俺はもう何も言わず去ったほうがいいのかもしれない。
バニーは怒るだろうが、そのうち忘れるだろう。


「やめて下さい」

頭を撫でていた手を払われた。

「なんだよ、折角人が心配してやってんのに、かわいくねーなあ」

払われた手を大袈裟に痛そうにしながら唇を尖らせバニーを見れば、思い切り睨まれた。

「貴方は、いつも人の心配ばかりして。どうして僕に貴方の心配をさせてくれないんですかっ!」
「おい、バニー?」

怒鳴るように言われて、その勢いに戸惑う。

「ロイズさんから聞きました、貴方がヒーローを辞めるって」

虎徹の顔が強張った。

「何か理由を聞いてないかって聞かれましたよ、ロイズさんは、僕は当然知っていると思っていたみたいです」
「バニー……」

何か言わなければならないのに、言葉が出てこない。
手を伸ばそうとしたが、また振り払われるんじゃないかと思うと手も出せなかった。

「……どうして、急に辞めるなんて。僕に何の相談もしないで決めるんですか。僕は、貴方の、パートナーなのに……」

バーナビーの声に時折嗚咽が混じる。
躊躇っていた手を伸ばした。
バーナビーが伏せていた顔を上げる。その顔は涙に濡れていた。
こいつは俺に、涙も隠さないのか。
俺のために、俺の前で泣けるのか。
そこまで信頼されていたことに胸を打たれ、俺はバーナビーの身体を抱きしめた。

「悪かった、お前にはどうしても言い出せなくて」

バーナビーは20年も復讐のために生きてきて、ようやく解放されたのだ。
何か振り切れたように穏やかで、幸せそうなバーナビーに、能力減退だとかヒーローを辞めるだとか、暗い話題は切り出し辛かった。
なんて、そんなことを口にしても言い訳にしかならないだろう。
俺はこいつの信頼を、再び裏切ったのだ。
あの時の、苦い記憶が蘇る。


『パートナーとして信じてみようと思ったのに』


「僕は貴方を信頼しているのに、貴方は結局、僕のことを信頼してくれていないままなんですね」
「……バニー」

バーナビーに肩を押された。それは弱い力だったが強い拒絶を感じて虎徹はバーナビーから離れた。

「……本当に辞めるんですか」
「あぁ、楓と約束したんだ。これからは傍にいるって。ずっと、一人で淋しい思いさせちまったからな」

嘘は、言っていない。

「……今度は僕が、一人になるんですね」

何言ってんだ、お前なら一人でも大丈夫だろ。
そう言うつもりだったが、バーナビーが涙を流しているのを見て押し黙った。
バーナビーも両親を亡くしていて天涯孤独なのだ。それに一年近く一緒にいるが恋人がいる気配も、そういえば親しそうな友人がいる気配もない。
もしかしたらこいつは、俺がいなくなったら本当に一人になるのかもしれない。

「お前、恋人でも作れ。いないだろ、今」

突然、バーナビーが立ち上がった。
腕を捕まれ、バランスを崩した俺が床に尻餅をつくとバーナビーがのしかかってきた。

「おいっ、何す…」
「だったら!貴方がなってくれますか、虎徹さんっ!」

床に押し付けられた状態で、俺はバニーを見つめた。

「……は、ははっ……、何言ってんの?おまえ」

顎を捕まれた次の瞬間には唇を塞がれていた。

「ンッ……!?んぅっ……」

舌が押し込まれ、口の中を縦横無尽に這い回る。
突然のことに驚き戸惑い、それでも正気を取り戻すとバーナビーの胸板を押して何とか逃れた。
口の端から流れる唾液を手の甲で拭いバーナビーに視線を向けると、立ち上がり俺に背を向けたまま口を開いた。

「……今日はもう、帰って下さい」
「おいっ、何だよそれ……全然わかんねーよ」

振り返ったバニーの頬に涙が流れるのが見えた。

「僕は、貴方のことが好きです、虎徹さん」

バニーが痛い程本気なのが、流石の俺にでもわかった。

「……これ以上一緒にいると、貴方に何をしてしまうかわかりません。だから、帰ってもらえますか」
「……わかった」





俺は卑怯な人間だ。
二度もバニーの信頼を裏切って、その上本気の告白から逃げ出した。
本当に、最低だ……。









17話見てこんな妄想をしたのに18話がまさかの展開で裏切られて、流石タイバニ様って思いました。公式クオリティ半端ない。



[戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -