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「例えばさ、全人類が片想いだったとしたら、それだけで地球は滅亡しちゃうよな」
『いきなりどうしたの?』
「たまたま読んでた漫画に出てくる登場人物がみんな片想いでみんな失恋した」

パタンとその漫画を閉じて机に置いた。装丁をみるとどうやら少女漫画のようだった。表紙の女の子の目がキラキラしている。

『随分とひどい漫画だね。空想の中くらい幸せにしてあげればいいのに』
「菜々子はハッピーエンドが好きなのか?」

コップに入っていたウーロン茶をコクリと飲んで犬飼は私を見た。コップを置くと中の氷がカランと鳴った。周りの結露がポタリと落ちて机に小さな水溜まりを作っている。それを犬飼は右手でなぞり落書きを始めた。

『そうだね。悲しい話しは好きじゃない』
「俺は悲しい話は好きだよ。どうせ空想だろ。物語が終われば、それはただの他人事じゃん」
『他人事でも悲しいものは悲しいよ』
「物語が悲しくったって現実が幸せなら、何も問題はないと思わないか?」


『つまり?』

聞き返すと犬飼はニヤリと、私の返しを待っていたような顔をした。

「こんな茶番劇みたいな片想いは止めないかって話」
『誰の片想い?』

私はあえて聞き返した。

「ほー、しらを切るか」
『言葉にしないと分からないことって沢山あると思う』

それが今、でしょ?

「いい加減俺たちの両片想いを止めないか?」

犬飼は爪でコンコンッと机を指差した。さっきの結露は平仮名でふたつの文字を作っていた。

『遅いよ、私も、』

(片想いで終わるより)

title:箱庭さま



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