とても静かな目だったが、けして穏やかとは言い難い視線だった。
『赤司くん、何か私に用?』
「うん」
冷静に言葉を紡いでいるものの、その話し方はその状況にはあまりにも不自然だった。
私は今、赤司くんに壁に押さえつけられている。両腕を頭の上で動けないようにし、首もとには鋏が添えられている。ちらちらと当たる刃先が冷たい。
「菜々子は、なんで僕がこういうことをしてるか分かる?」
思い当たる伏しはあったが、敢えて即答はせず少し視線を反らし考える振りをした。
『……ちょっと分からないな』
「ふーん……僕を怒らせたいの?」
もう既に怒っているじゃないですか。
「昨日、どこにいた?」
『昼は学校、夜は自宅』
「夕方は?」
『……』
「うん、夕方は?この沢山の怪我は何かな?」
ギリっと掴んでいる私の腕に力を込めた。
私は今、冬服で長袖を着用。スカートの下にはタイツを履いて、手袋をはめている。肌の露出面積は顔と首くらいだ。
彼の前で肌を見せていないのに、なんで分かった?
『……痛いよ、赤司くん』
「答えろ。この怪我はなんだ?」
『……ちょっと私の不注意で出来た怪我だよ』
「嘘つけ、明らかに人為的な怪我だろ」
彼は私の袖をめくりあげた。袖の下にはぐるぐるの包帯を巻いていた。さらにそれをほどきあげると、火傷あとやら青黒く変色した肌が姿を現した。
「これが不注意?ふざけるな。誰がやった誰がお前をこうした誰が傷つけた誰がお前の肌を触った誰がお前に触れていいと言った?」
「お前を傷つけていいのは?」
『赤司くんです』
「お前に触れていいのは?」
『赤司くんです』
「お前を殺していいのは?」
『……赤司くんです』
(君を傷つけるのも汚すのも)
(君の命を奪うのも全て)
僕しかいないんだ。
title:水葬さま