小説 | ナノ





彼は、誰からも愛される。そのくせ、誰にでもなつく訳じゃない。尊敬している人にしかラフに話さないし、勿論スキンシップをしない。誰にでも尻尾をふるわけではないのだ。


つまり、彼は一度心を許した相手にはとことん甘えてくる。なつく。

「黄瀬くん、重いし、邪魔」
「ヒドッ!」

やたら体重を掛けて後ろから抱きつく彼は、私に何を言われようと離れることはしない。さっき軽く肘打ちをしたが、効果はみられなかった。

「私、このレポート提出しないと留年しちゃうの。だから、集中したいの。分かる?邪魔だ離れろ」
「嫌っス!菜々子っちが構ってくれなきゃ暇すぎて死んじゃうっス!それに抱き着いてるだけなら作業の邪魔にはならないっスよ!」

何言ってんだ、こいつは。

「邪魔になってるから言ってるの。分からんのかこの駄犬くん、時計見なさいよ!暇とか言ってないで寝ろ!」

さっきからこんな調子で話はいっこうに終わる気配はない。時刻は深夜2時。レポートは残り5000字もある。いい加減イライラして、口もいつも以上に悪くなってしまう。

「……分かったっス」

幻覚だけど、彼の頭に犬の耳が垂れ下がっているように見えた。しょぼん、という効果音がよく似合う。


彼は静かに私から離れて、寝室に向かった。これで、集中できる。

彼は、もっと自覚して欲しい。普段こんな風に突き放してばかりいるから、彼ばかり私を愛してるように思っているのだろう。けれど、実際は、私は彼が思っている以上に彼のことが好きだ。私の方が年上だから、気が張って上手く甘えられないけれど、本当は、本当に好きなのだ。

さっきだってずっと、私を後ろから抱き締めてくる。ゼロ距離のモデル顔は正直心臓に悪い。心臓がうるさいし、顔は微熱を孕むし、精一杯言葉の鎧で強がって平常心でいる。
普通に考えて、大好きな人が抱き締めてくるなんて緊張するに決まってる。

集中できるわけ、ない。
あの駄犬は、もっとそれを自覚すべきだ。




いや、違うか。
私が上手く甘えられない分、彼が甘えるチャンスをくれているのか。



この課題が終わって床についたとき、彼はまた、私を抱き締めてきた。

だから、緊張して寝れないってば!



企画:きみがだいすき!さまへ提出させて頂きました。


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