気付いたときには、もう既に全てが遅すぎた。
「菜々子菜々子!やっとあの子と付き合うことになったんだぜ!」
「おめでとう!やったじゃん!」
いえーい、とお気楽な声をあげてハイタッチする。触れあった手は冷たくも温かくもなかった。
「菜々子のお陰だよ、マジありがとな!」
満面の笑みの彼は宛ら太陽みたいに輝いていて、明るくて眩しかった。
ずきり。
嫌な音がした。
高尾とは席が隣になって、すぐに仲良くなった。話しやすいし気さくだし、一緒にいて本当に楽しいと思えた。
しばらくして、彼は私に恋の相談を持ち掛けてきた。隣のクラスの女の子が気になる、と。彼には色々とお世話になったし、私が恋仲になってあげた。
一緒になって一喜一憂して悩んで、やっと彼が付き合うことになった。
いいこと、なのに。
話し相手になっているとき、薄々気付いていたこの感情は気付かない振りをしていたのに。もう、隠せないところまできてしまったらしい。
その日、高尾はあの子と仲良く手を繋いで帰っていった。その後ろ姿は私の目に焼き付いて離れない。
そんな私を見て、緑間が珍しく「一緒に帰らないか」と誘ってきた。断る理由もなかったし、いいよ、と返事をした。
「緑間、高尾がね、やっとあの子と付き合えたの」
「そうか」
彼はいいとも悪いとも言わず、その言葉を肯定した。
「あのね、あのね、緑間……」
緑間はただ私の言葉を待っている。優しい沈黙は私の痛みを悪化させた。
「私、は、高尾のことがね、」
自分の言葉でぎゅっと心臓が締め付けられて、じわりじわりと抑えていたものが込み上げてきた。
「二葉亭、辛いときは、泣いてもいいのだよ」
引き寄せられるままに彼に抱き締められた。抵抗もしなかった。彼は私の頭を優しく優しく撫でてくれた。この掌は、こんなにも温かい。
「ねえ、どうして」
あふれてしまう前に、どうか
(感情と涙なんか)
(全部なければいいのに)
企画:アストロノート様に提出