※死ネタ
おいおいおいおい。勘弁してくれ。
久々に俺の部屋を訪れた幼馴染み、夏目花子は入って突然泣き始めた。理由を聞いても「なんでもない」の一点張り。「なんでもない」のであれば、こんなとこまで来て泣かないで家に帰ってくれないか。なんて言える訳もなく、困り果てた俺はキッチンから二人分のお茶を拝借し、部屋に戻った。
するとなんとまあ、泣いていたはずの花子は俺のベットで寝ているではないか。何処までもゴーイングマイウェイな奴である。しかも、キャミソールに短パンという、思春期真っ盛りの男子には少しばかり刺激的。
幼馴染みといえど、男子なんだからもう少し気にして欲しい。気にしていないということは、男として意識されていないのであろう。なんだか俺が泣きたい気持ちになってきた。我ながら不憫だ。
すやすやと寝息をたてている花子にタオルケットをかけて机で課題を進めるが気になって手につかない。くそう、お前がいなきゃこの課題おわるんだけどなこのやろうスヤスヤ寝やがって可愛い顔してんな。
小一時間ほど経った夜中の1時。やっと目を覚ましたかと思えば、何事もなかったかのように「おはよー」と大あくびをして起きやがった。
「おはよーじゃねえよ。一体お前は俺の部屋に何しに来たんだ」
「なんだっていいじゃん。あ、もうこんな時間だ。帰るね〜」
とぼとぼと部屋のドアまで向かう花子。本当に帰ろうとしてやがる。さっきは嵐で今は快晴な顔つき。
こいつの気持ちは晴れたとしても、このまま帰られては俺が曇りのままになる。
幼馴染みとして、という悲しいが唯一の繋がりを使わないわけにはいかない。そして、この二人きりの空間。
俺は思いきって花子を壁に追い詰めた。部屋の鍵は実はさっきこいつが寝ている間に掛けた。帰ろうとするであろうと、予想していたから。
「さんざん泣いて寝て、何も言わずに帰るのか?」
「ああ、タオルケットかけてくれてありがとう」
「違うだろ」
「んー、じゃあ」
少し考え、背伸びをすると俺の頬にキスを落とした。
「ありがとう」
出来事についていけず、ポカンと口をあけていると、腕をすり抜け鍵を開けてスタスタと出て行った。
去り際に「好きだよ」という言葉を残して。
そして、俺は携帯の着信音で目が覚めた。
宛先は母からだった。
「花子ちゃんが交通事故にあった」
机で寝落ちした筈の俺の肩にはタオルケットが掛かっていた。俺の物の筈なのに、何故か花子の香りがしたのは、きっと気のせいなんかじゃなかった。
title:博愛さま
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