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追いつかれてはいけなかったよね


※ある意味悲恋


この本丸に来て随分と経った。刀剣たちの練度も高くなり、綱渡りのような危ない戦もしなくなった。

戦績も悪くないし、政府からも待遇が良くなった。みんなのお陰だと思う。

けど、私は早くこの審神者という仕事を辞めたくて仕方がなかった。別に俗にいうブラックというわけではない。仕事もプライベートも両立できている。

じゃあなんでなのか。

私は、神様である刀剣男子の一人に恋をしてしまったからだ。
なんと恐れ多いことだろう。

感情に名前がついた途端、それを意識するようになってしまった。日に日に想いは募るばかりで、一向に収まってはくれない。

相手は、堀川国広。割と初期の方で来てくれた彼は、初期刀である歌仙の次に強い。最近までは近侍にもしていた。
親しみをもって接してくれる彼といることが嬉しい反面、とても辛いと感じるようになってしまった。

本丸では私だけが女性だからみんなが甘やかしてくれる。彼もその一人だった。
なのに、私は勘違いをしてしまったのだ。近侍にしていた数ヶ月間で、それは加速的に強くなっていった。その事を酷く後悔している。

人間が神様に恋をするなんて馬鹿げている。そう吐き捨てて、私はこの気持ちを放置することにした。見て見ぬふりをして、きっと時間が解決してくれる。そう信じて。

***


本丸御殿から審神者の部屋までは小さな渡り廊下を過ぎなくていけない。これは冬場の今はとても辛かった。
白い息を吐いて寒さを視覚的に描いて、冬になってしまったと感じる。次の春で2年目になるのか。


部屋に入ろうとすると人影が見えた。堀川国広、その人だった。


「なんで近侍を外したんですか」

堀川は怒っていた。眉ひとつ動いていない、声もいつもと変わらない。けれど、彼は私の右手を強く掴んでいた。強張り、空気が張り詰めた。

「たまには、ローテーションしてみんなの意見を聞けたらなって」

そう、嘘じゃない。実際、本丸の風通しはよくなったと思う。
けど真実でもない。

「……、わざわざ変えなくても出来ることじゃないですか」

今度は少し強く言葉が吐き出された。それに少しだけ怯え、また同時に期待をしてしまった。

「そうかな、じゃあ、けど…………また暫くしたら戻すから、ね? 」

子供をあやすような声で、静かに返して腕を振りほどいた。そうして踵を返して部屋に戻ろうとした。

しかしどういうわけか、振りほどいた筈の彼の手が今度は私の肩を掴んでいた。

「なに、堀川」
「なんで平気な顔してるんですか」
「ねえ、本当にどうしたの? 」

「分かっているんでしょう? 」

淡い透き通った水色の目が、強く光ったのを私は見逃さなかった。
馬鹿げてる。

「一時の感情の話はやめようよ」
「どうして拒絶をするんですか? 」

「だって、不毛だよ。私はすぐにおばあちゃんになる。そして死ぬの」
「そんなこと」
「真名を奪って神隠しをするの? 」
「それで幸せになれるなら」


神様に恋をするなんて馬鹿げてる。
けれど、拒絶も罰当たりなのか。

来世があるなら、もっと素直に生きられますように。
酷く冷たい冬の日に、とある本丸の審神者が消えたという。

その行方は、未だ知れず。


title:コールドフィールドさま





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