世界はすこしは鮮やかになったかな
「ばか」
ぽつりと零した。二、三歩先を歩く影山には、きっと聞こえてない。
例え彼に聞こえたとしても、彼に真意はわからないだろう。それでいいと思っているから、構わないのだけども。
影山に伝わったら、真剣に考えてくれるのだろうか。なんて考えるけれど、今の彼の脳内はバレー一色でそれ以外は殆ど機能してないかもしれない。悪口ではなく、純粋に1つのものに情熱をかけられるそういう人なのだ。
だから、先程影山が告白されていたこともさほど気にしては、いない。
……いない、訳じゃない、少しだけ。
ここで先に抗議しておくが、決して自分から見に行った訳じゃない。偶然通りかかっただけなので無罪を主張しておく。
相手が顔を真っ赤にして「好きです」と言ったことに対して、影山がなんて答えたのか聞こえなかった。珍しく少し長く応えていたように見える。
私は答えを知らないまま、二人で歩いているのだ。
足取りがどんどん重くなる。もし万が一、告白した彼女がこの現場をみたらどう思うだろう。あまりいい顔はしないだろう。そりゃ告白した日に相手が別の女子と歩いていたら、なにかしらの感情渦巻くだろう。それは憎いなのか、悲しいなのか人それぞれだと思う。大丈夫だろうか、私は彼女に刺されないだろうか。
なのに今日に限って影山は一緒に帰ろうと言ってきた。何度と帰ったことは有るけど、それはタイミングがあっただけの話でこうして声に出して誘われたことは一度もない。
私は、どうしたらいいのか。
ねえ、影山は彼女になって返事をしたの?なんで黙って前をどんどん歩いていくの?
今、影山の心の中は、
「なあ、名前」
いつの間にか影山の足は止まり、こちらを向いていた。それに気付き私も足を止める。日が暮れて、電灯の明かりと民家から漏れる光がある。
その中で真っ黒い影山の髪はその光を反射して、僅かに輪郭を保っている。
「今日、告白をされたんだ」
「え、うん? 」
目線をどこに持っていけばいいか分からない。静かに顔が俯いていき、視界は彼の顔ではなく首から胸元、ついに自分の足元に視線がいった。
なんて言葉を紡げば正解なのか、 それを必死に考える。
「断ったけど」
自分の影に小さく光が反射したように見えた。
「俺は、バレーしか今は考えられない。だから断ったと思った」
はて、なんで影山の言葉は少し客観的じみてるいるのだろう。
淡々と影山は話していく。
「けど、その後、すぐにお前の、名前の顔が浮かんできた」
ふいに顔を上げると、影山と目が合った。
「俺は、」
急に途切れた言葉を、文脈を考えて私は少し期待した。
無器用に彼は照れた顔で、今彼は考えている。きっと私のことだって、自惚れてもいいかな。
「お前のことが好きだなって、思って、その……」
影山の言葉の1つ1つが私の顔を赤くしていく。期待以上の言葉をもらえる私は、世界で一番幸せだなと思う。だから、私も丁寧に言葉を紡いだ。
「あのね、影山、私ね、」
紡がれた言葉で、影山も私と同じくらい熱を帯びて赤くなることを期待して。
企画:ハローグッバイさまに提出させていただきました。
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