※二年のときの話


カリカリとペンを走らせる音と、校庭で走り回る部活をしてる生徒の掛け声。教室は夕日を浴びて足下に暗い影を落としていた。時刻は下校時刻まじかで、部活のない生徒はとっくに帰宅してる。
私はといえば、先生に言われた課題をせっせと進めていた。きっと受験を終えれば雑学にシフトされるであろう、この問題たちは私の人生に役立つ日が来るのだろうか。そんなことを思いながらも、仕方なくやる。ふと、ペンが止まる。この問題は、まだやっていない範囲ではないだろうか。見覚えがない。

「それ、ここの公式使うんだよ」

ふと、頭の上から声が降ってきた。顔を上げると、私のカテゴリー的には『わりと話す方のクラスメイト』が立ったいた。菅原くんだ。

「あれ、部活は?」

「今日は早く終わって、忘れてたノート取りにきた。樋口は、課題? 」

「うん」

「偉いべ。それ、明後日の課題だろ? 」

俺、まだやってねーべ。なんて笑って言う。

「冬だから、もうすぐ暗くなるし、その、樋口が良ければ、一緒に帰る?」

えっと、と、口ごもり、首を縦に降る。急いで手元の課題をカバンに押し込んでいく。焦らなくてもいいと菅原くんが笑う。

昇降口を出た頃には、もう、すっかり暗かった。

「寒いなー。もう11月だもんなー」

「菅原くん、進路は?」

「んー、地元の大学かなー。わかんないけど。樋口は?」

「私は、東京に行こうと思ってる」

「そっか、遠いなー」

「まだ先の話だよ」

先の話なんて現実から少し遠ざけようとする。まだ受験なんて本腰を入れるには早いと思っていたい。

卒業したら、その先はどうしてるだろう。

こうやって暗い田舎道を歩いて帰ったことも、ただの思い出になってしまうのだろうか。しかも横にはクラスメイトの男子が笑って歩いている。なんだかまともに青春をしている気分になった。

「そういえば、一緒に帰っても大丈夫だった?」

「どういうこと? 」

「いや、彼氏とか、好きな人がいたらあんまりよくないと思って」

「あー、そういうのは一切ないね。うん」

我ながらこの返しをして虚しくなる。高校生だし、さっきだって青春だなーとか感慨深く思ってるくらいだから、全く興味がないわけじゃない。ただ、好きになる人がいない。クラスメイトの男子を見たって子供だなとしか思わない。

「そっか、よかったべ」

安心したように笑う菅原くん。それよりも、菅原くんの方がそういうのありそうだけどなあ。

「菅原くんは? 」
「俺? あー、うん」

肯定? それって私と帰るのまずいんじゃないでしょうかね。万が一、ほら、相手? に勘違いされてさしまったら申し訳ないもの。

「菅原くんの「樋口は、彼氏も好きな人もいないんだよね?」……うん?」

私の言葉に重なる。少し焦ったような、自信のないような声。見ると、少し顔が赤いように、見えなくもない。

「俺が、そこに立候補とか、だめかな? 」

そこ、とは。

「えっと、つまりそれは、菅原くん。あのさ、私の文章読解が間違いでなければ、それはつまり、告白ってやつだよね」

「うん」

数分前まで青春だなーとか、他人事のように思っていた自分がいきなり主観にまわされた。顔がやけに熱い気がするし、さっきまで見れた菅原くんの顔が見れない。自然と顔が俯く。

菅原くんは、優しいクラスメイトだ。子供っぽい男子に紛れた数少ない大人っぽい男子。


下心のある、立派な男の子。今だって、多分、菅原くんの作為的な策士的な状況が作り出した告白シーンというやつなのかもしれない。


どうしよう、意識したら、私の中の菅原くんの立ち位置がよくわからなくなってきた。

クラスメイト、男子。
違う、たった今カテゴリーが一つ増えた。

『好きになるかもしれない人』

そのワードが浮かんだ時、私はごく自然に首を縦に振ったのだ。


title:炭酸水さま
まだ距離感を覚えていた
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