寂しそうにしているから、少しだけ距離を詰めてあげた。黒子くんはそれに気付かず、遠くをひたすら見つめている。声を掛けることはしない。きっと今は頭の中で何か考えを巡らせているから。甘えたくなったら、黒子くんから手を伸ばしてくれる。私はそれを静かに待つのだ。 ゆっくりと歩幅を合わせて、線路沿いの道を歩いて行く。電車が通るたびに、冷たい空気を押し込んでくる。掴むのは空気ばかりで、寒く悴んだ手をポケットに入れた。外気に当たらないだけ、多少はましだった。手袋はつけない。買ってもすぐになくしてしまうし、寒ければ今みたいにポケットにいれてしまうから。 吐く息は白く、ふわりと消える。 踏切の近くまでやってきた。車通りが多くて、排気ガスの臭いが漂ってくる。車側にさりげなく黒子くんが寄ってくれた。多分、無意識なんだと思う。紳士だなあと、私は黒子くんをちらりと見る。すると、目があった。 急のことだから、なんだか恥ずかしくなって私は平常心を装いながら前を向いた。 遮断機が降りると辺りに警報機が鳴り響く。黒子くんはなにか言っていた。とても小さな声でうまく聞き取れない。聞き返しても黙りを決め込んでしまった。 踏切が上がると黒子くんは静かに私の手をポケットから出して握ってきた。外気に触れて寒いのは一瞬で、黒子くんの大きな手が私の手を包み込んでくれた。 「寂しそうにしていたので」 黒子くんがそう言うと、私はその手を強く握り返したのだ。 title:夜と魚さま 震える指は救済を謳った |