えーと、今日って何日だっけって、ああ24日か。24日って、あれ、なんか忘れてないかな。何か、何か……。眠たい瞼を擦り、お腹だけに罹った毛布を退かす。

「っっっ20時じゃん!!!!!!!!!!!!」

私は覚醒したばかりの身体を無理矢理起こして、改めて携帯をみた。明るい画面には現在の時刻を表情していた。時刻は20時を回ったところ。私は一度正座になり、今日の約束のことを思い出す。

確か終業式、隣の席の及川という奴に明後日は空いてるかと聞かれた。モテ男に空いてるというのもシャクだったので、「いいや私は用事あります」と言ってみれば、及川は両目をかっぴらいてこう言った。

「嘘だね!!!!」

まだ帰りのHRの最中だったので先生に怒られた。クラスメイトもじろじろとこちらを見てくるので穴があったら入りたかった。巻き添いもいいところである。嘘って何だよ。嘘なんだけどさあ。

こそこそと、先程よりも幾分か小さな声で「じゃあ誰と何すんの?デート?」と聞いてきた。なんでただのクラスメイトに私のプライベートを教えなきゃいけないんだと思いつつ、また叫ばれても困るので「と、友達と」とまあ嘘には思えないだろうことを言っておいた。因みに本当は用事なんてなく朝から家でゴロゴロとゲームをしているつもりだった。

「ふーん、誰」

今日の及川は納豆よりもしつこいと思った。あんまり聞いてくるのでついに降参して白状すると、満足そうな顔をして頷く。本当にこいつぶち■してやろうかと思った。

「じゃあ、19時に駅前の広場まで来て」


なんでと言おうとした瞬間にHRは終わり、及川はとっとと部活に向かってしまった。ちょっと待ってよ。おかしくない?

私はこの後歯医者の予約をしていたからとっとと帰らなくてはいけないし、後で連絡をとるにしてもそんなに交流のなかった及川の連絡先なんて知らない。誰かに聞けば教えてくれるかもしれないけれど、言う勇気はなかった。



そして、約束当日。朝からゲームをやり疲れ果てた私はリビングで爆睡。親は夜遅くまで仕事だから、誰も起こしてくれる人なんていなかった。

もうさすがにいないだろうか。

そう思うもとりあえず、着替えて化粧をして外に飛び出した。家から駅までどう頑張っても30分以上は掛かる。いや、雪も降っているから下手したら倍以上。とにかく足を進めるも、横を過ぎて行く二人組の多さに疑問を覚える。ふむ、なんだかいつもより活気に満ち溢れている。

なんとか着いた頃には21時をとっくに過ぎていた。広場を歩き回り及川を探す。どこを見てもいない。
やっぱり帰ってしまったのか。新学期は早々に土下座かな。いや、それとも及川の冗談、悪戯の類だったのか。あ、それとも達の悪い罰ゲームかな。じゃあ笑い者なのか、私は。


雪の中一人立ち尽くしていると、不意に頬に温かいものが触れる。

「あつっ」

振り向けばそこには鼻を真っ赤にした及川が立っていた。

「遅過ぎ」
「うん、ごめん」

「ま、実は言うと及川さんも今来たところなんだけどさ」


笑いながら私に温かいココアをくれた。受け取るときに微かに触れた手は氷のように冷たい。

「用事って、何」

寒さで震えながらも、ぽつりと言う。

「今日何の日か知ってる?」
「えーっと平日」

「………うん。そうだね」

あからさまな溜息をつき呆れ顔で私を見る及川。手を額をついていて本当にわざとらしい。

「クリスマス」
「え」

あ、そうか。そうだよクリスマスだよ。毎年大体一人で過ごすし、プレゼントなんて後日お年玉と一緒に現金でもらうから、私の中には薄れていたイベントだ。


「そうだね」

忘れてたわ。と笑って言うも、内心焦っている。じゃあ、なんで及川はこんな大事な日に私なんかを呼びつけて(しかもこの極寒の中二時間も待っていたっぽい)何の用か。うっすらと、ある一つの可能性を導き出すもどうにも納得できず首を横に降る。

「いくら馬鹿な樋口ちゃんでも分かるんじゃないの」

あー、こんなときまで人を小馬鹿にするのかよ及川。お前本当にいい性格してんな。

ココアで温まった手の上から冷たい手が重なる。私の手はすっぽり埋まった。ああ、及川の手ってこんなに大きかったんだなんて悠長に言ってられないよね。
意味不明のオンパレードだよ、及川。

「ごめんね、私頭悪いから、こんな日にただのクラスメイトから呼びたされてもよく分かんないんだよね」

すっとぼけてやった。すると及川はいい度胸じゃんと言って、私の顔をクイッと手前に寄せ唇を重ねてきた。私は驚いて離れるも、及川はごちそうさまといって唇をペロリと舐めた。

「ちょっとまって、及川、冗談でしょ」
「冗談なわけないじゃん。ずっと好きだったんだよ?及川さんの視線に気付かないなんて本当に馬鹿だよね樋口ちゃん」


色々待ってって感じなんだけど、とりあえずこいつ私のファーストキスを平然と奪っていきやがったぞ。

寒さなんてどうでもいいよ、訴訟だよ訴訟。聖なる夜に大事件だよ。

「及川お前イケメンならなんでも許されると思うなよ」


こうして、及川との激闘の日々が始まるのである。


title:苺色さま


※つづかない
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