「だからね、言ってやったの。私はあんたのお母さんじゃないって」
「うんうん」
「私は彼女で、女の子なの。もっとさあ、なんで、私がリードしてるのって」
「うんうん」

「マッキー聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」

さっきから同じ言葉を二回繰り返すことを繰り返す目の前の友人は、私のほうを一切見ない。目線は手元の週刊少年誌。私たち以外誰もいない教室は、少年誌のページを捲る音だけが聞こえる。

「で、話は終わりカナ?」
「目の前の嵐は未だ停滞してます。続きがあります」

はぁ、とわざとらしい溜息をつくマッキー。溜息をつきたいのはこっちだよ。誰も私の気持ちを分かってくれない。

「一葉はさ、それ、彼氏に言ってなんて返ってきたのサ?」
「もっとしっかりするって。だから別れないでって」
「女々しいネ」

マッキーは少年誌の巻末コメントまでしっかり読んだらしく、閉じて机に置いてやっと私と向き合った。

「今更気付いても遅いよ。だって冷めちゃったもん」

教室は暖房が切られていて、段々寒くなってきた。セーターの袖を握り少しだけ伸ばすも、寒さは緩和されない。寧ろ、足元からの冷えが酷くなるばかりで、いっそのこと足を抱えてしまおうか。

「じゃあ、今は一葉フリーってこと?」
「正式には別れてないけど、まあ、ほぼほぼそうだね」
「ふーん」

やはり寒くなって足を抱えてみた。さっきよりは多少暖かいけど、スカートの下スボン履いてたよね私。

「というかさ、聞いてもらっててなんだけどさ、マッキー部活は?」
「今日は月曜だからない」
「そっか。せっかくのオフなのに、ありがとう」

「別に」


「彼氏は彼氏で大変だったと思うよ」
「何?マッキーは彼氏の味方なの?」
「違う違う。可愛い彼女がさ、別の男といるのに、上目遣いだったりとか、無防備に足晒しちゃってパンツ見えそうだったりとかサ」

「うっそ」
「ギリね」

大人しく座りなおすも、恥ずかしくなってきた。

「彼氏は寧ろ敵ダネ」

なんで、と返そうとしたけど、その口は塞がれてしまった。

「ま、勝手に自滅してくれたけどネ」

「マッキー?」

「わざわざのオフにさ、なんで他人の惚気混じりの愚痴を聞くって、好きだからに決まってんじゃん」

じゃなければこんなことしないよ。


単純に優しい人なんていないから、一葉はもっと気をつけて。けど、俺の優しさに甘えてくれて構わないんだヨ?


ねえ、聞いてる?



title:炭酸水さま


真面目に聞けよ
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