そういうことをするのは二度目だった。一度目は名前も知らない男の人。サラリーマンだと言っていた。スーツを着ていたから多分本当。私は大学生だと嘘をついた。本当は高校二年。夏休みだったから化粧と茶髪で武装していたからばれてない。
情事の後はただ気だるくて、その過程を思い出してもただの作業のようだったし、痛かった記憶しかない。処女の喪失感よりも何も思わなかったこの空っぽの心に虚しさを感じた。
ただ目の前の三枚の紙切れが私の存在理由みたいだった。

そして今は二度目。なんだかそういう雰囲気になってホテルに向かう途中だった。声を掛けられた。振り向くと同じクラスの赤葦という男子だった。制服姿で何故ここにいるのか。こんな建物ばかり並ぶところにまさか同級生なんているとは思っていなかった私は動揺した。隣に立つ男は誰こいつとゴミを見る目で赤葦を見る。私は知らない人と言った。

男に手を引かれ雑踏に消えようとしたところを、赤葦は止めた。何をしているんだと。何をしているというのはこちらの台詞だと思った。いい迷惑だ。

離してと振り解こうにも無理だった。予想以上に強かった、男の子の手だった。樋口だろ。ああ、こんなところで本名ばらさないでよ。

男は完全に怒っていた。赤葦めがけて拳を振りかざした。赤葦はそれを交わし、相手の肩を掴み取った。消えてくれ。そう静かに言った。男は元元非力だったのだろう。その場に唾を吐いて、去って行った。

赤葦は私の手を引いた。重い足取りでどこかに向かって行った。その間、お互いに一言も話をしなかった。引かれるままについて行くと、家の前に立たされた。表札には赤葦と書いてある。中に入ってと促され、部屋に通された。殺風景な部屋だった。夏に似合わない温かいお茶を出された。一口飲んでその場に置いた。

「何をしていたんだ」
「見てのとおりよ。説教のつもり?」

私は嫌みったらしく笑った。

「逆に聞くわ。なんであんたが彼処にいたのよ。少なくとも制服でいるような場所じゃないわ」
「帰り道に樋口を見かけた。だからついて行った」
「何?ストーカーだったのあんた」
「違う。明らかにおかしいと思ったからついていった」

「残念。あれは利害一致した関係なの」

はあ、とため息をついた。せっかく貰えるお金をこんな厄介な奴に見つかったがために止められるなんて。

「何度目?」
「さあ、ご想像に任せるわ」

赤葦は少し考え頷いた。

「じゃあ、俺ともセックスしてくれるの?」

無表情でおかしなことを言い出した。真面目だと思っていた奴がまさかそんなことを言うなんて思いもしなかった。私は笑ってしまった。それこそ、普通の女子高生みたいに。

「なに?口止め料?こんなんで良ければどうぞ」

「そう」

少し嬉しそうにして私を抱き締めた。じゃあ、遠慮なく。驚くくらい静かにベットに沈み込んでいった。

初めてのときとは全然違った。比べるものがあって初めて優劣はつく。あのサラリーマン下手だったなと鼻で笑った。だって、こんなにも気持ちいい。

終わった後、寝てしまった彼の背中にキスをした。

落ちていくのも、悪くない。


title:巡礼さま
こんなにも美しい背中
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