このときをもって私は新たな人生を歩もうと、心に誓ったのだ。 いやあ、人生だなんていうと随分大それた決断のように聞こえてしまうけれど、まあそこそこ大きな決断なのよ。私は告白しようと思っているのです。既に相手を体育館の裏に呼び出しをしてあり、もうすぐ約束の時刻になる。女子トイレの古ぼけた鏡で精一杯身なりを整え、少しばかり慣れない化粧もした。下ろしたてのカラーリップが唇によくはえる。よし、こんなものだろう。髪型はお昼に友達に頼んでいじってもらった。 そう、これが私の精一杯。 仕上げにスカートをもう少し短くする。寒いけどこれくい気合で大丈夫。 さーて、振られてきますかね。 なんたって相手は我が宿敵、月島蛍。散々いじられ、多分私のことが嫌いなんだろう。けど、初めてあったときに、俗にいう一目惚れなんてしてしまったから苦しかった苦しかった。けど、それも今日で終わり。 「待ってろ月島」 いつもより大股で体育館に向かった。 *** 「寒々」 あー、せめてマフラーくらいしてくればよかった。宮城の12月にカーディガンとブレザーの装備じゃ寒すぎる。 約束の場所にはまだ月島はいない。もしかして、ばっくれたとか。いやいや、さすがに約束は守るだろう。 小さな階段に腰掛ける。冷たいけど、立ってるのも寒いし我慢我慢。 今日はこのあと雪が振るらしく、鉛色の空が重く沈んでいた。 人を小馬鹿にした態度で煽ってくるけど、一言多いけど、なんだかんだで好きなんだ。惚れた弱みだくそう。 その長身も、実は最近頑張ってるバレーも、そつなくこなす姿とか、滅多に笑わないけど一瞬だけ見せる笑顔とか。 「好きなんだよなあ」 「え?」 「え、」 声の聞こえた方を向けば、噂の月島くんですよ。うっそ、今絶対聞こえてたよね。うわー、せめてもう少し雰囲気作って散りたかった。 私はもうどうにもならないこの空気をゴホンっとわざとらしく咳こみ仕切り直す。 「いやあ、寒いところごめんね月島」 「ホントにね」 と、言うわりに機嫌はそんなに悪くないかな。分かり切った上での同情なのかもしれない。 「あのさ、月島。今日呼び出したのはさ、んーとね、うん」 何度も脳内で繰り返した言葉はいっこうに紡げず、やがて真っ白になった。なんて、言えばいいのか。ポロリと零した「好き」と言う言葉は、いざという時には全く出てこない。本当は、こんなに重い言葉だったのか。 顔が俯きはじめた。さっきまで感じてた寒さなんて忘れてしまった。 いっそ誤魔化して終わろうか。 いやいや、友達にも助けてもらってここまできたのにそんなの中途半端すぎる。けど、さっきの言葉を聞いているなら、もう月島は分かってるだろうというかこんな呼び出してる時点でわかっちゃっているよね。 うん。せめて潔く。 俯いていた顔を上げ、しっかりと月島の顔を見た。 「私、月島が好き」 堂々と言ったつもりだけど、少し震えていた。それでもやっと言えた言葉だ。 月島、早く、何かいって。振るならせめて、嫌い以外の言葉でお願いします。 「僕も、樋口のこと好きだよ」 私の視界は、明るくなった。 今日の天気予報はどうやら外れてしまったようだった。 title:暴君さま そうだった純粋だった僕ら |