ぼくの心臓を否定しないでください

景色は朧げで、覚えているのは彼が優しい顔で微笑み、そして、私が今一番欲しい言葉だった。

ゆっくりと覚醒する。開いた視界に見えるのは、いつも一緒に寝るぬいぐるみ。無表情のそのぬいぐるみは、幼い頃母からもらった唯一のプレゼントだった。
ぎゅっと抱きし、さっきまで見ていた夢に浸る。

夢に出たのは、私の想い人であるカノ。夢の中の私は随分と積極的で、現実の自分とは全く相対する別人だった。なんでも言えるし、なんでも出来た。想いを伝えることも、甘えることも、それ以上のことも。
淫夢ではないが、もし現実のカノにこの夢が見られてしまうなんてことがあれば、海に飛び込んで泡になって消えてしまいたいと思う。
ふわふわとした夢心地でいると、扉を叩く音が私を早急に現実へと引き戻した。短く返事をすると、セトが朝ごはんだと呼びに来てくれたみたいだ。
着替えてから行きますと言うと、セトは分かったっすと返し離れて行った。

夏の朝は既に気温を25度を越えており、額がしっとりと汗ばんでいる。白のワンピースを着てパーカーを羽織った。
扉を開けると、リビングに向かったと思っていたセトが立っていた。

「あれ、セト、リビングに行ったんじゃ」
「花子と一緒に行こうと思って」

セトの、口元は笑っていたと思う。声も普段と変わらなかったと思う。
目だけが、目だけが、

紅い。

「見ないで!!」

狂ったように彼に飛びつき目を覆った。しかし、一歩遅かった。

「妬けるっすね。また、カノの夢を見てたんすか」

飛びついたことをいいことに、セトは私の腰をガッチリホールドした。しまった。気付いたときには、既に遅かった。
もう、逃げられない。

「ねえ、花子。キドしか見てないカノなんかより」

唇と唇が重なり、ガリリと口元を噛まれた。血に濡れた彼は、ニヤリと笑い悲しい目をしていた。


title:依存さま

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