丸い夢を飲み込む

皿の端に寄せられたその緑の玉は、小さな影を落としていた。


「ねえ、花子」

「ごちそうさまでした」

きちんと食事終了を告げたのに、カノは不機嫌な顔をしている。先日「ごちそうさま」を言わずに席を立とうとしたら怒られた。だから今回はきちんと挨拶をしたのに、彼は一体何が不満なのか。

「なに?」

「なに?じゃない。グリンピース残してるよ」

彼が指を指す先に、真っ白い皿の端に青々と艶やかに鎮座するそれ。早く食べて欲しいと言わんとばかりに私を見つめている(錯覚)

「好き嫌いは良くないと思うよ」

「好きとか嫌いとかそういう次元の問題じゃない。これ、は人間が食べるものじゃない。ただの彩りを与える為の飾り」

「グリンピースは立派な食べ物だよ」

「じゃあカノが食べてよ」

「え?僕に食べさせて欲しい?」

どこをどう聞いたらそう聞き間違えるというのだ。ニヤリと笑うカノは、とても不気味で後退りをした。早くここから離れてしまおう。カノのおもちゃになるのは面倒だし、それに、厄介だ。

「そんなこと言ってない。私はこの後用事があるから、それじゃあ……」

「そんな遠慮するなよ」

ガッと思い切りパーカーを掴まれて、宛ら親猫に掴まれた仔猫の気分だ。ああ、逃げられないのか。首に腕を回され口の前にそのスプーンを寄せる。口は頑なに閉じているのにグイグイ押し付けてくる。

「ほらほら、早く食べなよ!」

真後ろにいるから顔は見えないけど、多分この人ものすごく楽しんでいる。
しつこく寄せられるのをなんとかよけていると、諦めたのかスプーンを遠ざけた。
私が勝ったな。


「仕方ない」

カノはスプーンを自分の口に運んだ。あ、食べてくれた。


「ワガママな花子にはこうしてあげよう」

ぐいっと首を後ろに向けられ、唇と唇が合わさった。え?

「ん………っ……ぁ」

突然のことでよく理解できない。重なる唇から伝わる熱と角度を変える度に、カノはわざとらしく音を立ててくる。恥ずかしいのと混乱と酸欠。

一瞬だけ唇を開けたとき、見計らったかのようにカノの舌が入り込んできた。しかも例の物まで。びっくりして、唾液と一緒にそれを飲み込む。逃げる私の舌をカノが絡みつけてくる。くちゅくちゅと恥ずかしい音が鼓膜を揺らす。

「ぅ……あ……ん…カ………っノ!」


精一杯。これが私の精一杯紡いだ言葉。というより音に近い。このSOS(?)に気付き、カノはやっと話してくれた。



「食べれるじゃん」

ケロっとした顔で言ってくれる。今のは食べたとは言わない。飲み込んだというのだ。思うが、呼吸を整えることが必死過ぎて睨むのがやっとだった。

「涙目で睨むとか、そんなにおいしかった?」


「……馬鹿じゃないの!」

やっとのことで罵声をひとつ。まだ呼吸は荒い。


「えー?花子はグリンピース食べれないんでしょ?まだあとひーふーみー…4つか!全部僕が食べさせてあげるからね」



ニコリと笑うとまたスプーンに一粒のせて彼の口に運んだ。

「はい、あーん」



今度は絶対に残さない、残すものか。そう、心に誓った花子だった。



title:シンガロンさま

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