その偶然は運命かもしれない
※腐女子表現注意
文化部の私の運動量といえば、週に二回の体育の授業くらい。家にいればだらけてるし、進んで外に出るような真似はしない。
そんな私は今、人生で最も速く階段を駆け登っている。これは、今夜あたり筋肉痛は必須だろう。足は今にもつりそう。
呼吸は荒く、足をぐんぐん前に出していく。目指すは四階の自分のクラス。なんでこんなに急いでいるのかというと、教室に忘れ物を取りに行くためだ。普通の忘れ物であればこんなに急ぐ必要はない。
その忘れ物というのが、俗にいうやおいの落書き満載のノートなのだ。
もしも、万が一、あのノートを誰かが見てしまったらと思うと死にたい気持ちでいっぱいになる。
急がなきゃ。
季節は夏の終わりだけど、湿度は高くドッと汗が吹き出してくる。額の汗をぐいっと拭って走る。
やっとのことで四階に辿り着いた。膝が笑っている。普段から運動しないからこうなるんだ。
階段を曲がりすぐ横にある私のクラス。教室の扉を開けると誰かいた。
「黄瀬くん?」
「ああ、花子さん」
黄瀬くんは私の机に座っている。その手には見覚えのある、
「黄瀬くん!!」
ガッと勢いよく、彼の手に持つものに掴みかかろうとしたが、華麗に避けられた。私は彼に抱きつくような形になってしまった。
「花子さんって大胆っすね」
「いや、あの、違う、黄瀬くんの持ってるノート!!」
慌てて起き上がり床に尻餅をついた。
そう、彼はあのノートを手にしていたのだ。クラス、いや全学年から人気の黄瀬くんに私の見せたくないものを見られてしまった。
私の静かな学園生活に終末を告げようとしている。
ああ、グッバイマイスクールライフ。
「知らなかったっすよ。普段おとなしい花子さんにこういう趣味があったなんて」
「お願いします。返して下さい」
私は汗と涙で顔はぐしゃぐゃ、髪はボサボサ。そんな惨めな格好で彼の足元で土下座をした。プライド?そんなものどうだっていい。
「いいっすよ」
頭上から彼の声がきこえた。それと一緒にクスクスと楽しそうな笑い声。
ゆっくりと顔を上げると彼は口元を弧を描きニヤニヤしている。
「そのかわり、」
ぐいっと私の襟元を掴まれた。体はぐらりと彼に向かう。
彼のさらりとした髪が視界に映った刹那、彼の綺麗な顔が一面に広がる。
ちゅっと小さな音を立てて、顔が離れる。何が起きたのか、頭が追いつかない。
「俺の偽彼女になってくんない?」
私の名誉は守られた。
静かなスクールライフを代償に。
企画:君と奏でる恋の詩さまに提出させていただきました。
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