痛みを孕めど愛は産まれず

言葉は鋭く突き刺さり私の心を抉りその隙間から侵食していった。そして、その言葉はいつしか私の中に寄生した。

彼の言葉には力がある。
それは、スピリチュアルな、ファンタジーなことではなく、もっと現実的なもの。私限定に力をもつ。そのことを彼は知らない。

「姉ちゃん、彼氏いないでしょ?」
「いたけど別れました」

そう言うと彼はわざとらしく驚き、へえ!それは残念だったな!とオーバーリアクションをした。

「まあ、姉ちゃんには俺がいるんだから、いなくていいんだよ!」

後ろから抱きついてくる彼は、私なんかよりも全然大きい。元からこんなに大きかったのかな。彼の小さい頃のアルバムを探せば小さかった彼の写真が出てくるだろうか。
血の繋がらない弟のことは、出会ってからほんの少しも近づかない。私のことは知りたがるくせに、自分のことは全然話さない。
まあ、知らなくてもいいんだけれどね。

「大体、あんなチャラい奴に姉ちゃんが釣り合うなかったんだ」

「会ったの?」

「この前、たまたま見かけたんだよ」

後ろにいる彼の腕に少しだけ力がこもった。ああ、また怒ってる。

「和成」

「なんだ、姉ちゃん」

彼に少しだけ体重をかけると彼は腕を緩くしてくれた。

「姉ちゃん、ずっと一緒にいような」

そう言うと彼は私の首筋に、赤い所有印をつけた。チクリとしたそれはまた心に傷を増やす。痛みは一瞬で消えた。

そしてまた、私は寄生していくのだ。


title:寡黙さま



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