水曜日のねごと


寝惚け眼を擦ると幼馴染が死体のように転がっていた。通りで重い。
ぐいっとほんの数センチ浮かせて退かすがピクリともしない。足蹴にしてやろうかと思ったけど、連日の大会に免じてそのまま布団を被せて部屋を出ようとした。

ガシッと足を掴まれた。

私の足を掴む手は布団から伸びており、鍛えられた太い腕が引っ張ればあっという間にバランスを崩して尻餅をついた。

「っっっぶないなーーー!!!!なにしてくれんのよ!!!クロ!!!!!」

「ああ、目覚ましかと思った」

クロはのそりと体を起こし、大きく欠伸をした。

「普段目覚ましなんてつけないくせに」
「つけてたよ、ここ最近は」

ああ、大会だったからか。


「全く、次は気をつけてよね」
「気をつけてもなにも、なんでお前が俺の部屋で寝てんだよ」
「寝ぼけてんのはあんたでしょ?ここは、私の部屋です!どーせ窓から侵入したんでしょ!?空いてんのよ少し!入るならちゃんと閉める!!!」

ガンッとわざと音を立てて窓を閉めた。部屋が外気によってすっかり冷えてしまったので、暖房の温度を少し上げた。

「なんだ、閉めるなら入ってもいいのか」
「そ、そうじゃなくて!もう高校生なんだから勝手に私の部屋に入るの辞めてくれる!?クロのせいで私学校でクロの彼女扱いされてんのよ!?困るでしょ!?」

「……何が?」

「何がって、……私たち幼馴染じゃん」

そう言うと、部屋に奇妙な沈黙が流れた。クロは少し考えて頭を掻いている。そして、ゆっくりと立ち上がり私を見下ろす。幼馴染で毎日見ているとはいえ、やはり大きいなと思う。昔はあんなに小さかったのに。

「俺はお前を幼馴染と思ってないけど」
「……じゃあ何」
「……何、聞きたいの?梅子ちゃん」
「胡散臭い笑顔やめてよ。私それ嫌い」
「嫌いなんて言われると思春期男子は簡単に傷つくんだぜ。況してや好きな女の子から」
「へえ、覚えとくよ、って……最後のは何、誰のこと言ってんの」

「俺の目の前にいて恥ずかしくて前をちゃんと見れてない素直じゃないけど可愛い奴のこと」

「……うっさい」

「だから学校でお前が俺の彼女扱いされてんのは好都合なんだよ。で、これからはそれがちょっと真実に変わるだけの話だ」


にやりと笑う彼から、どうやら私は逃げられそうにもなかった。


title:さよならの惑星さま



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