昨日の愛を覚えてる
冬の澄んだ空気が気持ちいいと思えるくらいには、見事に酔っ払ってしまった。世の中は年末で忘年会シーズン。私の所属しているサークルも例外ではなく忘年会を開いた。普段そんなに飲まないお酒も、みんなといるとついつい飲んでしまう。
「梅子、お前強制退場な。これ以上飲んだら締めるから」
幹事の友達にそう告げられ携帯を奪われた。ロックを掛けていないから簡単に操作され誰かに電話した。返して、私の携帯。
数分後、居酒屋から放り出されそこに立っていたのは私の彼氏様だった。
「梅子さん阿呆なんですか? 」
どす黒い笑みを浮かべる力を見て、酔いがいっきに冷めた。そういえば、禁酒令まだ解かれていなかったんだ。
以前の飲み会で少しばかりやらかしてしまったことを聞いた力が私に二ヶ月の禁酒令を出したのだ。すっかり忘れていた。
「飲んでしまったものは仕方ないですけど、仏の顔も、ですからね」
豪炎を纏う仁王像が見えた。
約束を破ったのは私の方だから何も言い返せなかった。うぐぐ。
弁解させてもらうなら、やっぱり付き合いってあるしさ、飲まないとノリが悪い奴みたいな感じになるじゃない?だから。
「そうですね。けどダメなものはダメです」
怒っていた力は急に淋しそうな顔をした。なんで、そんな顔するのさ。
あ、あー、そうか。
つまり君は、年下であることが悔しいんだね。高校生だから大学生という未開の地の飲み会とやらに嫉妬しているんだね?そうでしょ。
なーんて、自己解決して勝手に笑みに浸っていると頬をつねられた。
「反省の態度がなってないです」
「ごめんごめん!!ごめんなひゃい!!」
手が離された頬は少し痛い。そんな風に拗ねた力がとても可愛らしく見えたので、私は頬にキスをした。
普段らこんなことしないから、力はしてやられたみたいな悔しそうな顔をしてキスをした左頬に手を当てる。あー、顔真っ赤じゃん。
「やーい、力かわいいー!」
「はいはい指ささない。全く、人の気も知らないで」
「知らないよ。教えてくれなきゃ」
ねえ、なにして欲しいか言ってみ?おねーさんが叶えてやんよ。
にひっと笑うと、手を握られた。
「今日は、これで」
「えー、つまんないー!」
「酒に酔ってる人にはこれで充分です」
「だって、いつも次の日には忘れてるじゃないですか」
そう言って手を引かれ、夜の道を二人で歩いていく。
夜空に見えたのが三日月だったことを明日の私は覚えてる。今までのことも、ずっと。
title:寡黙さま
prev|
Back|next
しおりを挟む