宇宙も泣くのだろうか、


女子の平均身長は158だと聞いたことがある。150代であればわりとかわいく、160代にいくとスタイルがよく見える。

そんな中、クラスメイトで一番小さい女子、松竹梅子さんは145だという。俺と並ぶと30cm以上も差が出来てしまう。まるで妹、いや、娘のようかもしれない。
歩く姿はペンギンのようでよたよた歩くし座るとお人形さんのように見える。なんとも玩具みたいな人だった。

しかし、口を開けばなかなかに雑な言葉使いで、少し男勝りなところがある。本人曰く、身長で舐められることが多々あるので、せめて自分がしっかりしていないと、変な輩に絡まれるのだそう。

「もっと女の子らしくしなよ」
「いいんだよ、別に。これが一番なの」

胡座をかいてそう宣う彼女の足を閉じさせると、お前はかーちゃんかと言いつつ足を直した。きちんと座っていればお人形さんなのだけれども。

***


テスト期間に入ると部活動は一斉に停止する。都内の強豪といわれる我が梟谷のバレー部も例外ではなかった。そうするといつもより一時間近くは遅くの時間の電車に乗っていく。通勤ラッシュに被る時間帯で、外は真冬でも電車の中はなかなかの湿度と熱気があった。正直なところ、不快だった。

右手で吊革に掴まり左手は単語帳を開く。ぐいぐいと押される中で見るのは至難で、10分もしないうちに諦めて鞄にしまった。テスト期間であっても明日からはいつもの時間帯に戻すことにしよう。そうぼんやりと思っていると、後方から何やら奇妙な声がする。

震えた、女の子の声が、微かに。

はじめはこのぎゅうぎゅうの缶詰めに埋れてしまった人の声かと思ったが、その声は確かに怯えた声だった。

「たす、けて」

声のする方を探し、キョロキョロと視線を動かす。あんまり大きく動くと周りに不審がられるので慎重に。

「誰か、」

その瞬間電車が大きく揺れて、吊革を掴んでいても身体が大きく揺さぶられた。グッと足を踏ん張るも隣のサラリーマンが大勢を崩して自分の方に寄りかかってきた。その少し屈んだ先にいる女子高生と目が合った。涙目で弱り切った彼女は、松竹さんは、震える唇で、本当に聞こえるか聞こえないかの声で言った。

「赤葦、たすけて」

あの時の声だった。あまりに弱々しくて気付くことができなかった。しかし、目の前の彼女を見つけたとき、俺の身体は勝手に動き出していた。

「いってえ!!何するんだ!!」

寄りかかってくたサラリーマンが叫んだ。俺が彼の左手を後ろに回し捻ったからである。

「痛いじゃありません。いい大人がなにしているんですか。汚い手で松竹さんに触らないで下さい」

「こんなに混んでる電車で触れない方が無理だろうが」

「じゃあ、なんで彼女は泣いているんですか」


更に力を強くして威圧的な視線を送ると彼は観念したように黙り込んでしまった。そのまま、彼を駅員さんに引き渡した。彼女は大丈夫だからと、その場は駅員さんと後から来るであろう警察に任せることにした。

もう遅刻の時計を見つめごめんねと謝ってきた。まだあの男勝りな威勢のいい声にはほど遠い大人しい声だった。

「それよりも、本当に大丈夫?顔色悪いし、今日はもう帰った方が」
「大丈夫、大丈夫だから」


だから、今日のことは誰にも言わないで。

へらりと笑う彼女の頭をそっと撫でていた。撫でたのは無意識で、自分でも驚いていた。その場を取り繕うために無理しないでと言うと、彼女は怖かったとまた泣きそうな顔をしていた。

そのときの顔があまりにも普段と違って見えたことと、あのときたすけてと言われたときの衝動は同じ理由なのか、今はまだ分からないでいる。


title:たとえば僕がさま


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