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何となく分かる異変として、まず、機嫌が悪くなる。部屋を散らかしていると不機嫌そうに片付けを始めたり、少し会話が噛み合わないと溜め息を吐いたり。そして、寝起きが悪くなる。早起きした日なんて朝の挨拶をしても適当な相槌しか返ってこない時もある。決定的な事といえば、体調が悪くなる。普段は血色のいい顔色をしているというのに、その時になると真っ青な血の気の引いた顔をしている。腹部を抑えながら苦しそうにしている事もあるし、起きてられないようで風邪を引いたかのように寝込んでいる事もあった。それがどれ程の事なのか、俺には到底分かりもしない症状なのだが、だからこそ普段よりもうんと甘やかしてやるように心掛けている。



「大丈夫か?湯たんぽ持ってきたぞ。」
「うぅ……ありがとう。」
「ノープログレムだぜ、マイハニー。プリンセスのピンチに駆け付けてこそのナイトさ!」
「…………。」



熱湯を注いだ湯たんぽを手渡せば一松のように気だるげな視線とかち合った。ゆっくりとした動作で布団から腕を伸ばし湯たんぽを受け取ると、俺の言葉に冷ややかな視線を投げてすぐに、ごろんと寝返りを打って俺に背を向けて寝てしまう。その背中に構っていられないと書いてあったので、ハニーの側で大人しくしている事にした。マイハニーは所謂女の子の日というやつで、更に言えば腹痛が酷い性質だった。月に一度、こうして酷い時は寝込んでいる。勿論、そうでない時もあるが、今回は顔色が真っ青になるくらい酷い時だったらしい。そろそろ時期だろうと思って訪ねてみれば案の定寝込んでいたようだから来て正解だった。机の上に散らばる薬と少しだけ水の残っているコップを片付け、暇を持て余した俺は普段家でもやっているように手鏡を借りて身嗜みを整える。出来る男はいつでも自分の女の前では格好良くありたいものだろう。せっせと整えていれば小さな寝息が聞こえる。どうやら本格的に眠ったらしい。生理痛が酷い時は寝ると楽になると言っていたから、これで少しだけだが安心出来る。



「……う……ぅ……。」
「名前?」



起きる頃には体がだるくとも腹痛はだいぶましになっているんだろう。そう思っていたのだが、安心していられるのも束の間で、時間が経てば苦しそうに呻く声が聞こえてくる。なるべく音を立てない様に眠る名前の顔を覗き込むと、どうやらうなされているらしい。眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべている。眠っている時まで痛みにうなされるとは、生理痛とはかくも恐ろしいな。俺には痛みを代わる事は出来ないし、その痛みを体験する事も出来ないが、少しでも楽になればと思いながら腰の辺りを撫でた。



「早く良くなるといいな。」



起こさないように、刺激を与えないように、ゆっくりゆっくり撫でてやる。こんなにも苦しんでいる姿を見ると、仕方がないとはいえどうにかならないものだろうかと考えてしまう。勿論、止める方法くらい知っているし、何だったら止めてやっても俺は一向に構わないが、こういうのはお互いの気持ちが大切だ。折角、名前が頑張って俺の子供を産むために準備をしてくれているのだから、俺が勝手に決める事ではないだろう。名前のタイミングがいい時に子供を作ったらいい。勿論、俺の方はいつでも準備は出来ているからな。名前さえその気になってくれたらいつでも生理を止めてやれる。今からその瞬間が待ち遠しい。すっかり呻き声も聞こえなくなり、眉間に寄っていた皺もなくなった。すうすうと規則的な寝息が聞こえてきて、もう大丈夫だろうと布団を肩まで掛け直してやる。



「名前との子供は、可愛いだろうな。」



毎月毎月、苦しんで呻いて耐え忍んで、それもこれも全ては俺と名前の子供を産むためだと思えば甘やかさずにはいられない。機嫌が悪くなって当たり散らされても、俺よりも睡眠を優先しても、体調不良で二人の時間がなくても、全てが愛しい。名前が毎月俺との子供のために苦しんでいる姿を見る事が嬉しい。早く名前との子供に会いたい。