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→主人公男女ともにどっちも存在してる。藤丸→男主人公 立夏→女主人公
→カルデア職員
→円卓面子は出て来ないのに風評被害が酷い



「今夜、貴方の部屋にお伺いしても宜しいでしょうか。」



時間をずらした食堂は人も疎らで、キッチンのカウンター越しにエミヤさんと世間話をしていても後ろを気にする必要がないから気に入っている。トレーの上に色とりどり、ご飯やお味噌汁、主食等々が並び、もう直ぐ食べ終わるだろう立夏ちゃんやマシュの側に座った。彼女達は昼食後、藤丸君と入れ替わりでレイシフト予定なのだそうで。行ってきまーすと元気良く食堂を出ていく彼女達を見送り、一人でもそもそ昼食を食べていた時の事。お一人ですか?なんて声が上から降って来て、顔を上げれば、そこには円卓の騎士様ことガウェインさんがいらっしゃる。あら、こんな時間に一人で珍しい。そうは思ったが余計な事は言わずに、肯定の旨の返事をすれば、ご一緒しても?なんて言われたので、これまた肯定する。英霊で尚且つ騎士様が私みたいな魔術回路も半端な魔術師とも言えない人間に敬語なんて使わなくてもいいのに、と思うが、彼等円卓の騎士達は基本的に誰にでも敬語であり、女性相手であれば更に丁寧になるので、そういう言葉は飲み込む事にしている。



「ガウェインさんお一人ですか?」
「ええ。これから昼食でして。」
「あ、もしかしてレイシフト帰りですか?」
「そんなところです。」



そういえば、彼は藤丸君が召喚した英霊だった事を失念していた。働いていない頭は、恐らく寝惚けているせいだろう。私の生活リズムと言えば、昼に起きて夜中に働き、朝に寝るという、到底人間の生活とは思えない生活を送っている。元々、早番、遅番制度はあったのだが、夜型人間であり、夜中の方が仕事に集中出来るという事もあり、ずっと遅番にしてくれるよう頼んだのだ。そのため、今ではギリギリまで寝て、起きてからは支度をして直ぐに昼食という名の朝食後、仕事をするのが私の生活である。そんな事もあって、あまり顔を合わせない英霊や職員もいたりして、私とのエンカウントがレアだと感じる人もいるらしい。私からしてみれば、貴方達の方がレアですけど、と言いたいところだが。ガウェインさんは藤丸君が召喚する時に何となく私が立ち会った時の英霊で、円卓面子の中でも私の中では知人くらいの位置づけにある。というより、それよりも距離を近付けようとは思わない。英霊という事を抜きにしても、彼等円卓の騎士という人達は、このカルデアで女性職員に大人気なのである。時には男にも。その為、変な事で反感を買いたくないのである。火の無い所に煙は立たぬと言うように、火種は最初から摘んでおくに限るとおうことだ。彼等の史実的な意味でドロドロした人間関係を、自分の職場でまで再現されては溜まったものではない。勿論、そうなるとは限らないが、そうならないとも限らない。何せ、実際に彼等は女性職員を既に食っているという噂がまことしやかに囁かれているからだ。一部良心を除く。まぁ、昼食一緒に食べたくらいで愚痴愚痴言う人は流石にこのカルデアにはいないが、私はようやく取り戻した平穏を失いたくない。世間話もそこそこに、手早くご飯を口に詰め込む。ああ、美味しいエミヤさんのご飯をこんな雑には食べたくなかった。私の唯一の癒しタイムが。名残惜しいと思いながらも背に腹は変えられず味噌汁を流し込んだ。



「名前、あまり詰め込み過ぎては良くありませんよ。」



目の前からクスクスと笑う声がする。見れば微笑ましいものでも見るように笑っているガウェインさんの顔。私だって出来ればもっとお上品に、一つ一つ味わって食べたいが、平穏の為であれば仕方がないのである。むしゃむしゃ租借をしているせいで反論の余地もないのだが。そうこうしていれば、何かに気付いたようにガウェインさんが少しだけ目を開く。



「失礼。」



そう言って立ち上がると、鍛え上げられた筋肉隆々の腕が私に伸びる。何だろうか。きょとんと彼の不思議な行動を見ていれば、私の口元に指先が滑る。ひょい、と何かを取ったかと思うと、ついていましたよ、なんてまた爽やかに笑うのだ。唖然と見ていると、それは米粒ではないか。米粒つけて食べるとか幼児かよ。少女漫画でも米粒つけたりしないだろ。もっと生クリームとか、そういう可愛いものだろ。米粒ってお前。爽やかイケメンによる少女漫画的案件もなんのその、自分のあまりの食い意地っぷりに凹みそうになる。これでフラグが立つ事はないだろうが、あまりにも女としてどうなんだろうか。はは、なんて笑って誤魔化してはみるが、自分を誤魔化せていないので致命傷である。



「わ、忘れてください……。」
「ふふ、随分と可愛らしい事をなさるんですね。」
「はは……。」



イケメンに言われると更に傷が抉られる。辛い。もう今日仕事したくない。照れていいのか、本気で凹めばいいのか分からなくなって引き攣った笑いしか出て来ない。ガウェインさんは尚も爽やかに笑っているが。私はもうこの場が居た堪れなくて、お皿が全て空になっている事を確認してから席を立った。



「そ、それじゃあ、私は仕事がありますので。」
「レディ。」
「では、失礼し「名前、待って下さい。」」



去ろうとしたらがっしりと腕を掴まれた。振動でトレーを落としそうになったし、トレーの上に乗っているお皿達はそれぞれがぶつかり合って音を立てる。落ちなくて良かったと安堵すると共に、嫌な予感がした。私にまだ用事があるのか。そもそも世間話しかしていなかったのに用事も何もなくないか。早くこの場から去りたい一心で彼をじとっと見遣れば、日中三倍は伊達じゃないなと思える先程よりもうんとキラキラした笑顔を作って冒頭の台詞を吐いたのだ。



「今夜、貴方の部屋にお伺いしても宜しいでしょうか。」



なぜ今夜なのか。今じゃ駄目なのか。というか、夜に男を部屋に呼べる訳がないだろ。早くこの場から去りたい。何で今それを言うんだ。断り方が分からない。何て言えばいいんだ。嫌です?イケメンの笑顔怖い。断って切れられたりしたらどうしよう。流石に騎士様がそんな事する訳ないか。いや、騎士様だし、某アニメみたいに、私が誘って喜ばぬ女はいなかった、みたいな反応されたらどうしよう。頭の中に検索エンジン欲しい。いや、部屋に来るくらい構わないか。どうせ仕事してて部屋にはいないし。寝起きの働かない頭で一生懸命考える事、時間にして3秒ほど。背中には冷や汗が伝い、顔は引き攣っている。



「いいですよ。」



肯定の言葉を口にして逃げるように立ち去った。ガウェインさんの言葉が自意識過剰でなければ、大人のお誘いになるんだろうが、勿論、それを肯定した訳ではない。今、その場を離れられるならばと吐いた口先だけの嘘だ。その日一日は、この出来事を忘れる為に夢中で仕事をし、自己暗示とは恐ろしいかな、本当に彼の言葉を忘れて、慌てて部屋に駆け付けた時には、ガウェインさんがその場で待ちぼうけて既に何時間と経過した後だった。そうして、私は後々知る事になる。部屋の前でガウェインを3時間待たせた女、として噂される事になるという事を。



(ご、ごめんなさい。私、夜に仕事をしていて、昼から夜は部屋にいないんです……)
(は、はぁ……)
((うわやばいめっちゃ怒ってるやばいこわい))