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「もぉ〜……。」
「牛の真似か?」
「違う!」



乳白色のお風呂は本来緊張や疲れを癒す為のものだろうが、まるで意味を成さない。まさか、素っ裸で後ろから異性に抱えられるなんて経験をするとは思わなかった。そういうのはドラマや映画とか、兎に角フィクションの世界だけだと思っていたからだ。そもそも、私がお風呂で異性であるオルタさんに抱えられる事になったのは彼の燃費の悪さにある。マスターである藤丸君に連れられる事の多い彼だが、バーサーカーというクラスもあって戦闘時の魔力消費が非常に激しい。場合によっては大怪我をして帰って来る事もある。激しい戦闘に加えて治癒なんてしていたら、カルデアに帰る頃にはかなりの消費をする事になるのは目に見えていて。それでも、カルデアに帰ってさえくれば電力で魔力の補充は出来るのだが、如何せんこの人は僅かしかない私の生命力である魔力を食べる。なぜかと言えば、相性が良いからだとか何とか言うが、帰って来ると真っ先に私の元に来て魔力を補充をしようとするので、怪我したままの状態を放っておく事も出来ず、仕方なしに日々魔力を渡しているのである。



「ちょっと治ってきましたね。」
「もっと寄越せ。」
「あー!お客様!困ります!!お客様!!!」
「うるせぇ。」
「あいたぁ!?」



ばしんと頭を叩かれた。クラス相性とかなしに自分の筋力考えて欲しい。めちゃくちゃ痛い。叩かれた場所を擦りながら、オルタさんの腕に出来た傷を見ていると、徐々にではあるが傷が薄くなっていく。そのままお腹に回っていた腕を解いて向かい合うと、彼の頬に腕を伸ばした。切り傷はまだまだ治らなそう。



「カルデアの電力を使えばもっと直ぐに治るんですよ。」
「早く治しても遅く治しても戦闘がなけりゃ同じだ。」
「それはそうですが、私もお仕事がありますので。」
「サーヴァントの管理もお前達の仕事だろうが。」



あくまでも藤丸君の補助なだけで、主な管理はマスターの仕事なんだけどなぁ。盛大に溜め息を吐いたところで、オルタさんはどこ吹く風である。それならばと早く治るように指先で何度も傷を撫でていれば、顔に出来た切り傷も少しずつではあるが薄れていく。本当は体の方も早く治してあげたいのだが、流石に胴体の方を触るのは羞恥心や他のいろんな感情が交ざって出来ない。裸でお風呂に入っておいて、と言われるかもしれないが、それはそれ、これはこれである。なるべく痛くならない様にと傷を撫でれば、オルタさんはどこか気持ち良さそうに目を細めた。



「もう少ししたら出ましょうね。逆上せちゃうし、まだお仕事残ってるので。」
「……ワーカーホリック共が。」



眉間に皺を寄せたものの、撫でる指先の気持ち良さに抗えないのか、何とも言えない顔をしていた。