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人類唯一のマスターとして日々奮闘する中、少しずつ呼び出したサーヴァント達との信頼も築けているのではないかと勝手に思っている。少なからず、僕は彼等彼女等を信頼している。だからといって、全員の事を全て理解出来ている訳ではない。彼等彼女等も元々は人間であったり、はたまたは空想の人物であったり、その在り方は様々で、だからこそ、きっと僕には分からない事の方が多いんじゃないかと思う。例えば、目の前でクー・フーリン・オルタがカルデア職員である名前さんに抱き着いている理由とか。それを当たり前のように受け入れて僕と会話を続ける名前さんとか。



「分かりました。その件については私の方で調べてみます。」
「あ、えっと、はい。お願い、します。」
「藤丸君?具合でも悪いんですか?」
「いえ、絶好調です!」



五体満足。体調も良好。不思議そうな名前さんの表情もよく見えている。今その顔をしたいのは、どちらかといえば僕の方な気がしないでもないのだが。ちらりと名前さんの肩越しにオルタを見遣るも、どうやら彼は僕の事など眼中にないらしい。戦闘時には決して見られないであろう気だるげな視線を落としながら名前さんの腰にその腕を回して擦り寄る様は、寂しくて構って欲しい犬の仕草に似ている。そんな事を口に出した瞬間、いくら僕が彼のマスターであろうとも心臓を狙われそうだ。そんな想像をして勝手に身震いしていれば、不意に名前さんがオルタの頭を撫でる。名前さんの肩に顔を埋めていたオルタは暫くその行動を享受していると、ゆっくりと頭を上げて何事もなかったかの様にその場から立ち去ってしまった。名前さんに何か言う訳でもなく、僕に声を掛ける訳でもなく。



「藤丸君?本当に大丈夫で「まっっっって!!!今の何ですか、名前さん!?」」



思わず名前さんの言葉を遮ってしまったが、今回ばかりは許して欲しい。バーサーカーとしては会話が成立するものの、やはり戦闘狂である彼の初めて見る姿に好奇心が刺激されて仕方がない。正直、今はどこかのよく分からない特異点の話よりも断然興味がある。僕の態度に驚いて怯んでしまっている名前さんを余所に、彼女の肩を掴んで、じ、っと真剣な目を向けたりして。



「オルタさんの事ですか?」
「そう!オルタの事!オルタがあんな穏やかなの初めて見たよ。」
「そうなんですか?私はカルデアにいる彼の事しか知らないので……。」



それから名前さんはぽつぽつと話始めた。気紛れなのか何なのか、理由は分からないが、時折、ああして名前さんの後をついて回る事があるらしい。ただ後ろをついて来る事もあれば、先程のように抱き着いてきたり、酷い時は仕事を放り投げさせて部屋に連行される事もあるんだとか。今みたいにただ黙って後ろから抱き着いて来る時は、頭を撫でてやると満足してどこかに行ってしまうらしい。そんな、何もかも初めて聞いたオルタの奇行に僕は口をぽかんと空けながら名前さんの話を聞いていた。



「という事は、今まで何度もこんな事が……?」
「そう、ですね……。何度か……。」
「あぁ……。」
「藤丸君?」



僕のサーヴァントが迷惑を掛けてごめんなさい。そんな謝罪よりも先に可愛いと思う感情が勝ってしまった。親馬鹿?なのは分かっているのだが、戦闘狂のオルタがあんな風に人に懐く姿はそうそう見れるものじゃない。それなのに今まで見逃していたなんて、それは余りにも勿体なかったのではないか。そう思うと何とも言えない声しか出せず、また名前さんは心配そうに僕の顔を覗き込んで来る。大丈夫です。僕は元気です。ただちょっとあまりにも可愛い現実に胸が締め付けられているだけです。そうして、僕は感情のままに名前さんにお願い事をするのだ。



「今度、写真撮ってもらってもいいですか。」



更に困惑した名前さんを見たのは言うまでもない事だった。