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戦って戦って戦った。体は常に傷だらけで心はみるみる疲弊した。それでも戦う事を止めなかったのは、憧れの大英雄と共に戦えているという支えがあったからだ。ケルトの大英雄、クー・フーリン。様々な伝説がある中、その生き様に憧れた。単純に格好良いと思った。自分もそんな風に戦いたいと思った。だから、あの人と共に戦う事が出来るのならば、弱音は吐くまいと心に決めて突き進んだ。その結果が、人理修復を志す人間に敗北。無様に投げ出された体はもう動かす気力などなく、目の前が霞んでいる。本当は気付いていたのだ。あの人は私の憧れたクー・フーリンではないと。分かっていたが、サーヴァントはマスターを選べない。嫌だと投げ出すことも出来ず、それならばと妄想を重ねて自分を誤魔化した。負けるのも無理はない。そこに自分の思う信念などありはしないのだから、勝てるはずがない。サーヴァントとなってどれだけ強くなろうとも、一握りの希望を見つめ続ける人間には叶わない。でも、それももう終わり。こんな虚しくて馬鹿げたい聖杯戦争は初めてだと思わず笑ってしまった。



「………………。」



人の気配がする。正確には人間ではない。黒と赤の塊。目が霞んでよく見えないが、見間違いなどしないだろう。自分を騙して憧れ続けた、あのクー・フーリンの姿。動かないと思っていた口が、その人を前にして勝手に動いた。



「負けて、しまいました。」
「……見れば分かる。」
「お役に、立てず、」



ごめんなさい。もうそんな言葉を吐き出す力がなかった。ひゅーひゅーと今にも消えそうな呼吸を繰り返す私の側から、赤と黒の塊は去っていく。あぁ、最期に1度でもいいから、振り向いて欲しかった。自分を見て欲しかった。戦でしか存在を見い出せないあの人に、少しでも側にいる事を許して欲しかった。碌に成果も挙げられない癖に、そんな事ばかり、願ってしまうのだ。

***

死に損ないがどこで野垂れ死のうが、どうでもいい。こいつもまたあの人間に破れたどうでもいい存在だった。肩で息をする様は無様であり、惨めでもある。そんな奴に声を掛ける程、俺は暇じゃないし慈悲深くもない。ならば、この場に留まる意味などない。そいつに背を向けて歩を進める。



「名前……。」



それなのに、俺は未練がましく振り返って消えゆくアイツをこの目で見届けた。覚えてしまった名前を呼びながら、よくやった、と王様らしい言葉を告げて。