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「こんな所にいたのか。探したぜ、お嬢ちゃん。」



薄暗い倉庫に男の声が響く。ちらりと見遣れば、王下七武海のドフラミンゴがフッフッフッ、と独特な笑い方をしながら私の側まで歩いて来ている様子だった。私はと言えばドフラミンゴから視線を外して、倉庫の小窓から見える景色をぼうっと眺める。ドフラミンゴに用はないし、そもそもこいつに構われたくなくてこんな辺鄙な場所で休憩してたのに、台無しだ。思わず溜め息が零れる。



「おいおい、俺を見るなり溜め息だなんて、つれねェなァ。」
「ゆっくり休憩したかったので。」
「可愛げのねェ嬢ちゃんだ。」
「申し訳ありませんね。」
「フッフッフッ、だが、嫌いじゃねェさ。」



目は口ほどに物を言うと言うが、サングラス越しでは何も分からない。何が面白いのか、口角は上がっているが、それもどこまでが演技なのやら。ドフラミンゴが私を構うようになったのは、軍の任務でたまたま奴の下で働いてからだ。任務が終わる頃には私は傷だらけの血だらけで、それをニヤニヤしながら見ていたこの男は、いいなァとだけ言うと、その能力を使って私を医務室に放り投げた。自分があの時あそこまでボロボロになったのはこいつのせいだと知っている。あまり気乗りのしなかった任務というのは聞いていたが、だからと言って私を消しかけて見せしめにしようだなんて、頭がおかしいんじゃないだろうか。それなのに、あれ以来鬱陶しく付きまとうのもどうかしてる。この男が何を考えてるのか全く分からないし、どうでもよかった。早く自分に飽きてくれれば、それで。



「今日は何しに?」
「あ?んなもん分かるだろ。」
「分かりませんね。会議でもありました?」
「フッフッフッ、なんだ?俺に言わせてェのか?」



何変な勘違いをしているのか知らないが、どんなに甘い言葉を掛けられても乗る気はない。ファミリーに入れだの、一夜を共に過ごして欲しいだの、どうして私が頷くと思っているのか。もしや、言い続ければ折れて私が頷くとでも思っているのだろうか。馬鹿馬鹿しい。はァ、と一つ最大に溜め息を吐いて小窓に背を向ける。スタスタとドフラミンゴの横を通り抜けようとしたら、瞬時に腕を掴まれた。力加減をしていないのか、かなり力が込められている。



「どこに行く?」
「仕事部屋ですよ。休憩、もう直ぐ終わるので。」



勿論、嘘だ。だが、見付かった以上、ここにいても意味がない。まだ休憩時間はあるが、いっその事、仕事部屋で休憩した方が落ち着けるだろう。腕を離して欲しくて振り払おうとするも、どんどん力が強くなる。痛みに顔を歪めて非難の声を上げれば、そこには普段から口角を上げている笑顔はなかった。



「こんな所に逃げ隠れて、そんなに俺に会いたくてねェか?」
「……どうでしょう。」
「あァ、嬢ちゃんは嘘が下手だな。」



思い切り腕を引っ張られて、私は簡単にバランスを崩した。私よりもうんと大きいドフラミンゴの体は私をその腕に収めるには充分すぎる程で、抵抗しようにも勝ち目がない事は明らかだった。



「無理矢理連れて行く事も、抱く事もしねェのはお前を気に入ってるからだ、名前。」
「……それはどうも。」
「相変わらずつれねェなァ。渾身の告白だってのに。」
「海賊の言う事は信じられませんから。」



ドフラミンゴのファミリーになるのも、女になるのも、どちらにしても使い捨てにされる事は目に見えてる。そうでなくても海賊にはなりたくない。早く自分から興味が逸れてくれればいいのに。寧ろ、こんな態度だからいつまでも興味が逸れないのだろうか。1度でも靡いた振りをすれば飽きてくれるだろうか。ドフラミンゴの腕の中でどうしたものかと悩んでいたら本当に休憩時間が終わってしまい、おつるさんに怒られてしまった。