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「また怪我したの?」
「うるせぇ!早く治せ。」
「治せって言われて治せる訳ないでしょ。頑張れ、勝己の自然治癒力。」



雄英高校というヒーローを志すには絶対条件のような超有名高校に進学した年下の幼馴染は毎日のように傷を作っては私に治せと無茶を言ってくる。私に傷を治せるような個性はないし、なんだったら総人口2割の何も持ってない人間だ。治すどころか、何も出来ない。けれど、無理だとか出来ないとか言うと声を荒げるので、仕方なく傷を拭いて消毒液を塗って絆創膏を貼って、というやり方で自然治癒を手伝っている。至って普通の、誰にでも出来る方法だ。お陰で絆創膏や消毒液など、自分には使わないのにやたらと医薬品代がかさむ。痛い出費だ。まぁ、今更の話ではあるのだが。



「この前の傷も治ってないのに。」
「ごちゃごちゃうるせぇな。」



勝己の帰る時間と私の帰る時間が同じで、帰る道も途中まで同じ。自然と一緒に帰るようになってから、こんな風に怪我を治すのも日常と化していた。勝己が高校1年生の頃から3年生になった現在までの3年間分の日常。ただいま、という私の声と共に、うっす、なんてよく分からない挨拶をして勝己が家に上がる。お母さんは、お帰りといらっしゃいを言うと、ご飯はもう少し後ね、なんて言ってリビングに引っ込んだ。毎度の事であり、これも3年目。私はといえば自分の部屋に勝己を招いて、最早私の部屋に常駐している救急箱から消毒液と絆創膏を取り出す。ティッシュも用意しておいた。



「ほら、手出して。」
「ん。」



念の為、洗面所で洗ってきてもらい、清潔になった腕を掴んで傷を見る。今日出来た傷は擦り傷程度で、絆創膏までいらないだろう。この前出来た傷も治りかけてる。学年が上がるにつれてどんどん派手な傷を作ってくるから、だいぶ綺麗になった腕を見てホッとした。無個性の私は普通高校の普通科に進んみ、大学もヒーローとは何ら関係のない場所を卒業、民間企業でヒーローに関わるようになったけど、それはこのヒーロー社会において当然の事で、何ら特別な事ではない。つまるところ、勝己のような才能マンとは真逆の人生を歩んでいる。こんな風に傷だらけで帰る事なんてないし、命をかけて戦うなんて事もあり得ない。



「消毒するよ。」
「おう。」
「痛い?」
「何ともねぇ。」
「強がってる?」
「んな訳ねぇだろ!チビチビやってねぇでとっととやれ!」



来年からはプロヒーローとして活躍するのだ。きっと、私なんかじゃ治せないような傷も作るだろうし、最悪って事もある。ヒーローの仕事なんてある意味24時間体制で、今みたいに毎日会う事もなくなる。本当は凄く心配だし、この関係が崩れてしまうのも寂しい。そんな事を言えば絶対怒るから言わないけど。簡単に治療をしながら筋肉質な腕に触れると、ちゃんと男の子なんだなぁ、なんて思わされる。あっという間に私の身長なんて追い越してしまったし、掌も私より大きい。力だって敵わないし、キスをする時は普段絶対見る事のない男の子の顔をする。



「終わったよ。明日こそ怪我しないようにね。」
「んなもん俺に言うな。」



乱暴者で短気だし、素行も態度も悪い。でも、私は知っている。才能マンの勝己が治療一つ出来ない訳ないし、雄英には治癒に長けた保健の先生がいると聞く。保健室に行けばいいし、自分でやればいいものを、わざわざ私に頼むのは、勝己なりの甘え方だ。態度が悪過ぎて誤解しそうだし、プライドエベレスト級の自尊心の塊が素直に人を頼れる訳がない。こんな風に理由をつけてでしか、人に頼れないし甘えられない。案外、可愛らしところもあったりするのだ。