その他 | ナノ





→ジェイソン一松
→猟奇的表現注意
→いろいろ捏造



記憶を遡る限り、僕は盗んだり殴ったり殺したり、そういう方法でしか人生を歩んでこなかった。社会の裏側でずっと生活していた僕に常識を説いたところで、そんな事では自分が死ぬだけだと理解していたし、今更真っ当な生活を送れと言われても無理な話だ。まともが僕には分からない。僕にとっては盗んで殴って殺す事が真っ当な事だ。血のべったりついたナイフを、殺した人間の服で適当に拭き、そして首を切り取る。この首が依頼主への証拠だ。殺人は僕にとってビジネスだ。世の中には殺して欲しいと依頼してくるクソみたいな奴が五万といる。そして、そんなクソみたいな奴に手を貸して生活しているゴミクズもいる。そういう世界がある。ビジネスとして成り立つ程に。これは僕にとってルーチンワークでしかない。しかし、僕はミスを犯した。こんな初歩的なミスは今まで一度だって起こしたことがなかったのに。僕の視線の先には女が一人いた。死んだ人間の首を切断している、その瞬間の僕を見ている。地元の人間でも迷うような路地裏を縫って辿り付いた場所で、夜中に人通りがあった試しのない、うってつけの場所で。そんな所にいつからいたのか知らないが、女がいる。瞬時に首からナイフを抜き、女に向かって走り出す。殺人現場を見られたかもしれない。マスクをしていると言えど、これからの仕事に支障をきたすかもしれない。不安の芽は摘んでおくに限る。しかし、首からナイフを引き抜き、頭を地面に落した瞬間、思いの外、音が鳴ってしまった。ゴツン、という鈍い音を聞いた女は我に返ったかのように僕に背を向けて走り去っていく。それだけでも最悪なのに、僕が遅いのか、女が早いのか、見る見るうちに僕と女の距離は離され、元々迷路のようになっている路地のせいで僕は女を逃がしてしまった。そして、その日から僕はその女を追い掛けている。殺人現場を見られているかもしれないというのもあるが、何より一度殺すと決めた人間を殺せなかった事が初めてだった。たかが女一人を殺せない。その事実は今までの僕のプライドをどれ程ズタボロに傷つけた事か。何がなんでも殺す。見付けたらまず喉を潰して、次に腕を、いや、足がいいか。毎日毎日、その瞬間を夢見ている。



「ヒヒ……。」



以前よりも、ナイフはしっかり磨く様になった。仕事も積極的に受け入れた。もしかしたら、ターゲットの女を殺して欲しいという都合のいい依頼がくるかもしれない。外に出る機会が多ければ、偶然にもどこかでまた遭遇するかもしれない。そうしたら、そうなった時は、今度こそ俺が女を殺す時だ。それまでほんの少しの休息を味わっているといい。日々、僕に遭遇しないか怯えながら過ごすといい。追い込まれているのは僕じゃない。女の方だ。



「ヒ、ヒヒッ、お前じゃなぁい。」



そして僕は今日も違う人間を殺す。