神隠し4



この日本家屋には、私と長谷部の二人しかいない。現世とあの世の狭間で、ふらふらと彷徨っているのが、私達だ。春が来て、夏が来て、そして、気付けば秋になっている。帰り方も分からず、途方に暮れる事も、もうなくなった。恐らく、帰る事など出来ないと悟ったからだろう。魂ごと、掴まれてしまった。雁字搦めにされてしまった。神様が、私を離してくれない。



「濡れてしまいますよ。」



ざあざあと雨が降っている。縁側に座りながら、たいして面白くもない曇り空を見詰めていると、足がびしょ濡れになって冷たい。私みたいな人間なのか、幽霊なのかも分からない、中途半端な存在が、現世でもない、あの世でもない、こんな場所で風邪を引く事などあるのだろうか。不思議だ。けれど、怪我をする事はあるから、風邪を引く事もあるのかもしれない。縁側の外に投げ出した足だけが、大粒の雨に晒されて濡れていく。爪先から侵食する様に少しずつ冷える体に、足を引っ込めた。もし、風邪を拗らせたら、私達は死んでしまうのだろうか。それとも、死ぬこともなく、苦しみ続けるのだろうか。考えても分からない事は、考えないに限る。足を引っ込めれば、手にしていたタオルで甲斐甲斐しく雨粒を拭き取ってくれた。私はどこぞのお姫様ではないし、他人を魅了するような容姿でも性格でもない。けれども、彼にとっては、長谷部にとって、私は特別な存在のようだ。その理由が、最近分かるようになった。それもこれも、私がいろんな刀剣達に主と呼ばれている夢を見るからだ。きっと、夢などではなく、いつかの私にあった本当の出来事なのだろう。私はすっかり、忘れてしまっているけれど。



「湯を沸かしましょう。ひどく、冷えてしまっています。」



広い屋敷の、狭い縁側。雨粒を拭き終えた長谷部が確かめるように私を引き寄せて、その腕の中に抱き締める。私を冷たいといいながら、長谷部の体も十分、冷たいと思った。そのまま体温が奪われていくような錯覚を覚えながらも、長谷部の背中に腕を回すと、少しだけ温かくなったような気がする。



「名前様……。」



消え入りそうな声が私の名を呼んだ。ただ名前を呼ばれているだけなのに、体が痺れるような、締め付けられるような気がして、上手く体が動かない。息をする事すら、出来なくなってしまったかのようで。そんな何分にも、何時間にも感じられた一瞬の後、長谷部がようやく離れていく。背に回していた腕がするりと床に落ちて、我に返ったかのように瞬きを繰り返した。長谷部が体を離す瞬間、目を細めて口角を上げ、薄らと笑みを浮かべているように見えた。




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