伊達組王様ゲーム



さて、今月もやって参りました。月に一度の本丸大宴会。次郎太刀を中心に酒飲みが主催しているこの飲み会では、本丸内の親睦を深めるという建前の元、普段よりも大量のお酒が飲める機会となっている。全員参加ではあるが、こんな時に本丸を襲撃されては元も子もないので、半数はお酒禁止となっている。それぞれが酒やジュースを手に持ち、今日この日の為に用意した食事を並べれば、次郎太刀の挨拶を機に宴会が始まる。最初の方は、これからの歴史修正主義者の動向だとか、政府の在り方とか、真面目な話をしているのだが、そのうち話は政府への愚痴であったり、刀剣男士内での愚痴、反省会が始まる。ここで寝る者もいれば泣いたり笑ったりする者がちらほら現れて、もう暫くすると、宴会芸が始まる。ここら辺になると、ジュースを片手にしていた者は自分の部屋へと戻って寝始める。酒に飲まれている者は宴会芸を見て笑ったり、自分もと乗っていったりする。そして、最終的には皆、雑魚寝を始めるのだが、今回は最後まで見守らずに自室へ戻って寝る事にした。ここ数日の睡眠不足により眠くて仕方ないのである。変に引き止められたりしないよう、そろりと立ちあがって自室へと戻れば、なぜか、私の寝るであろう布団の上で光忠と大倶利伽羅が寝ていた。



「いや、なんでだ。」



私の布団の上に光忠が仰向けに寝転び、光忠の上にうつ伏せになった状態で寝ている大倶利伽羅の二人はどう考えても体制的に苦しそうだった。現に、光忠は眉間に皺を寄せながら、うんうんと唸っている。その様子を立ちつくし、唖然と見詰めていたのだが、二人を眺めていたところで私が寝れるようになる訳ではない。溜め息を吐きながら大倶利伽羅を揺すった。



「おーい、起きろー。君達の部屋はここじゃないでしょ。」
「うっ……ぐぅ……。」
「寝るな。起きろ。」



起きるかと思いきやまた寝息を立て始める大倶利伽羅の背中を叩く。それでも、まだ眠たいようで私の腕を払い除けて光忠の上で眠っている。これでは埒が明かない。今度は光忠を揺さぶると、どうやら光忠は半分起き掛けていたようで、薄らと目を覚ました。普段、見目に拘っているだけに、髪をボサボサにしたままあどけない表情を見せるのは中々に珍しい。ぼう、と目を開けてぱちくりと何度か瞬きをする光忠を覗き込む。



「光忠?起きた?」
「……あれ?どうして君がここに?」
「それはこっちの台詞なんだよね。ここ、私の部屋だし。」
「へぇ。」



反応薄過ぎないか。とりあえず、起きるように言い付ければ、ぼうっとしたままではあるが、大倶利伽羅を押し退けて上半身を持ち上げる。ごろん、と無遠慮に転がされた大倶利伽羅は体を畳に打ちつけ、その衝動で目が覚めた様だった。まだ、夢見心地といった二人に、ここが私の部屋であり、自分の部屋で寝るようにと諭せば、光忠が私の布団に顔を埋める。



「僕はもうここで寝るって決めたんだ。」
「どこで寝るかは俺が決める。お前なんかじゃない。」
「なんでだよ!私の部屋ここなのに!」
「分かったよ。じゃあ、一つゲームをしよう。」
「酔ってるの?寝ぼけてるの?」
「ふん。いいだろう。」
「良くないよ?全然良くないよ?」



私の話など一切聞かないどころか、本当に彼等の眼中に私が映っているのかどうかすら疑わしい。私の布団を陣取ったままの光忠が中でごそごそと怪しい動きを見せる。今度は一体どんな駄々をこねるつもりだ、と思っていれば、三本の割り箸を取りだした。本来、二本で一セットとなっている割り箸が三本。使い道がないな、なんて思っていれば、それぞれ印のようなものが描かれている。光忠の取り出した割り箸を見るなり、ふ、と笑顔を見せた大倶利伽羅に内心滅茶苦茶驚きつつ、私は首を傾げた。



「あれをやるつもりか。光忠。」
「ふふ、そうだよ。久しぶりだろう?」
「(あれってなんだ……)」
「じゃあ、始めようか。政宗公ゲーム。」



何か既視感を覚えていれば、それは現代でいう王様ゲームと酷似していると思った。いろいろ説明されたが、結局のところ、王様ゲームでいうところの王様を政宗公と呼び、政宗公の無茶ぶりを聞くと言った内容のものである。そういえば、先程の宴会で獅子王や陸奥達が王様ゲームをしていた気がする。恐らく、そこに光忠と大倶利伽羅も混ざっており、なぜかその割り箸を光忠がパクってきたのだろう。本当になんでだ。光忠の手の中でカラカラと割り箸が混ざり、ずい、と目の前に差し出される。どうやら、既にゲームを始める気らしい。全く私の話を聞く気のない二人に、半ば諦めの気持ちで割り箸を一本引き抜いた。そうだ、ここで私が政宗公になり、二人を自分達の寝室に行くよう命令すればいいだけの話ではないか。政宗公になれるかどうかは運だが、この少人数で回ってこない筈がない。壱と書かれた文字を隠し、二人の様子を窺った。



「おっと、僕が政宗公だね。それじゃあ、主は僕と添い寝。」
「番号の意味知ってる?」
「ふざけるなよ、光忠。そこで寝るのは俺だ。」
「いや、違うからね?」
「なんだい?政宗公の僕に逆らうのかい?」
「くっ!」
「いや、全然悔しがるところじゃないからね。光忠がルール違反してるだけだからね。」



ツッコミが追い付かないとは正にこの事だろうか。一人だけ素面な事が今は恨めしいとさえ思う。不満そうに文句を垂れる光忠の頭を引っ叩いて、三本の割り箸をカラカラと手の中で混ぜる。さりげなく光忠が政宗公のターンは強制終了だ。混ぜた三本の割り箸を今度は大倶利伽羅の目の前に差し出し、次いで光忠の前に差し出す。残り物には福があるから、私は最後で構わないもんね。そっと、手の中にある割り箸を見ると弐と書かれていて、がっくりと項垂れた。福なんてなかったんだ。



「ふん。俺が政宗公か。」
「ふふ、なんでも言ってご覧。主が聞いてくれるよ。なんでも。」
「お前が聞け。」
「なんでもか?」
「聞かない。聞かないよ?番号で指定して!」



変なところで純粋さを発揮しないで欲しいし、その純粋さを利用しないで欲しい。違うと否定したところで、真剣に悩みだした大倶利伽羅には聞こえていないようで、ハラハラと命令を待つしかない。集中力が高いのは褒めるべきところだが、こんなところで発揮しないで欲しい。



「それなら、明日、猫の餌を一緒に買いに行くぞ。」
「そんなの駄目、え?猫?」
「そうだ。本丸にいる三毛猫と黒猫の分の餌がなくなったから買いに行く。」
「え?う、うーん、それくらいなら。」
「ずるいよ主!僕の時は駄目って言ったのに!」



ぎゃあぎゃあ騒ぎ出した光忠がドサクサに紛れて抱き着いてくるので、脳天にチョップをお見舞いしてやった。離れる様子はないのだが。背中に回っていた手がお尻を撫でるような手つきに変わり、先程よりも強めにチョップをお見舞いすれば、痛みに薄らと涙を浮かべて恨みがましそうに私を見上げる。別に可愛くない。そんな感じで、着々と政宗公ゲームを続けていたのだが、どう考えてもおかしい。既に回数は二桁に上るが、一度も私に政宗公役が回ってこない。私の運がないと言ってしまえばそれまでだが、それにしたって、こんなに繰り返して政宗公役が回ってこない事なんてあり得るのだろうか。ちらりと二人の様子を窺ったところで怪しい動作は見当たらない。つい、イカサマをしているのではないかと思ってしまった自分に恥ずかしくなった。二人がそんな事をする筈がない。だいたい酔っ払っているのだか、寝ぼけているのだか知らないが、そんな状態の奴等にイカサマなんて出来る筈がない。するり、と割り箸を引き抜けば、弐と書かれた数字に再び落ち込んだ。いつになったら寝れるんだ。



「それじゃあ、弐の人には膝枕をしてもらおうかな。」
「私だ……。」
「宜しくね、主。」



おかしな事に、政宗公になる二人は的確に私へと命令を寄越してくる。いや、イカサマを疑っている訳ではないのだが、あまりにも極端なものだから、疑わざるを得ないのだ。出来る筈がないと分かっていながらも、どうにも腑に落ちない。正座は辛いため足を伸ばせば、光忠の頭が膝の上に乗る。ちらりと光忠を見遣れば、金色の目が怪しく光って私を見上げていた。やっぱり、何かおかしい。むす、と不機嫌そうな表情の大倶利伽羅が無言でカラカラと割り箸を混ぜている。その手を掴んで制止をかけた。



「おかしくない?さっきから私しか命令聞いてないよ?」
「あんたの運が悪いだけだろ。」
「本当に?イカサマしてない?」
「僕達がイカサマをしていると、主は本当に思うのかい?」



勿論、そんなつもりはないのだが、どうしても腑に落ちないのだ。だって、そんなのおかしい。光忠の言葉に黙り込んでいると、するりと太腿に手が這ってくる。反射的にその手を叩き落とそうと手を上げれば、大倶利伽羅によってその手は掴まれてしまった。どうして。そう思って大倶利伽羅を見遣れば、その顔が近付いて後頭部に手を回される。唇に何かが重なった事に気付いた時には既に遅く、あんぐりと開いていた口の中には、ぬるりと舌が侵入してきた。抵抗しようにも足は動かせないし、片手は大倶利伽羅に掴まれ動かせない。唯一自由な片手で押し返しても、より一層後頭部を引き寄せられて、口内を好き勝手に暴れる舌に体の力が抜けていく。



「惜しかったね。僕達がイカサマをしている証拠が分かれば、大人しく帰ってあげたのにな。」



足が軽くなり、視界の端には起き上がった光忠が見えた。大倶利伽羅が離れ、呼吸を整えていれば、光忠が私の頭を撫でる。金色に光る目が怪しく細められて、思わず息を飲んだ。あれ、私はただ寝ようと思って自分の部屋に来ただけなのに。寝ようと思って、やりたくもない二人とのゲームに付き合っていただけなのに。どうしてこうなったのだろうか。



「あんな遊戯はただの建前だ。」
「最初からこれが目的だからね。」
「あんたが俺達のイカサマに気付けば部屋に戻ろうと考えていたのは本当だがな。」
「まぁ、仕方ないよね。気付かせるつもりもなかったし。」



布団の上に押し倒された私は怪しく光る二人の目に射抜かれて、身動きすらままならない。あんなに寝たかった布団の上で寝転んでいるというのに、全然嬉しくなかった。




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