神隠し3



何もなかった。この日本家屋には、緑豊かな植物が植えてあり、鳥が飛び交い、時折、どこからか狐や狸が迷い込んでくるけれど、何もない。テレビもパソコンも携帯も、私が本来過ごしていた空間にあった筈のものが、何もないのだ。そんな電気機器に囲まれて日々を過ごしていた私に、ここでの生活は苦痛だった。話し相手は気紛れに紛れ込んでくる動物と長谷部だけ。その長谷部も、どこか怖い。縁側にごろん、と寝転んで空を見上げた。太陽は照っていて暑い。空は雲一つないまっさらな青が広がっている。けれど、気分は晴れない。



「如何致しましたか?」



突如として、まっさらな青が侵略された。長谷部が私を上から覗き込んでいる。まったく足音など聞こえなかった。ただ単に私がぼうっとしていただけなのだろうか。驚いて体が跳ねたが、何とか悲鳴だけは抑えることが出来た。そんな私を見て、長谷部はどこかおかしそうに目を細める。



「なんでもない。暇なだけ。」
「暇、ですか。」



私の横に腰を掛けた長谷部を見て、私も起き上がる。足をぶらぶらさせながら、顎に手をあてて考え込んでいる長谷部を見上げた。



「では、こういうのはどうですか?」
「え?」



再び、私の体は縁側に寝転んだ。正確には、体を押され、床に押し付けられている。目を大きく開けて、何度も瞬きを繰り返しながら、目の前で口角をあげている長谷部を見上げた。確かめるように、何度も何度も頬を撫でては、額や瞼の上に唇を落とす。本気で言っているのだろうか。長谷部の胸板を押し返した。




「ははっ、冗談ですよ。」



長谷部が私の上からいなくなると、眩しい青空が見える。起き上がって、混乱したまま長谷部を見ていれば、どこか寂しそうに笑っていた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -