構って欲しい宗三の独白



刀剣として生み出された以上、僕にだって使われてこそ、という意識はあります。ただ傍らに侍らせているだけだなんて、そんな事はごめんです。今の主は、そうですね。僕を戦へ出してくれるので、その点では評価しています。土いじりをさせたり、馬の世話をさせたりするのは少々考えものですが、外の空気が吸えるのは気に入っています。けれど、僕を近侍にしているにも関わらず、長谷部や薬研に物を頼むのは如何なものでしょうか。流石に審神者がすべき仕事を寄越せとは言いませんが、僕だって読み書きは出来ます。手書き書類を作成するくらい出来ますし、戦だって、経験自体は少ないかもしれませんが主よりは詳しいつもりです。それなのに、長谷部や薬研ばかりに相談して、僕はただ部屋の傍らに座っているだけ。これでは、今迄と同じではありませんか。僕はお茶を出したり、本丸にいる誰かを呼ぶ為だけに、主の側に控えているつもりなんてないのですが。



「じゃあ、これ、今週中にお願い。」
「はい。最良の結果を主に。」



自然、部屋に入って来た長谷部を睨み付けてしまいましたが、勝ち誇ったように見下ろされて余計に腹が立ちました。近侍を外された時はこの世の終わりのような顔をして絶望していた癖に、よくも、まぁ、それだけ素早く掌が返せた事で。静かに閉まった障子を恨みがましく見詰めていましたが、見詰めていたところで僕に仕事が任される訳ではありません。目を瞑り、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。しかし、主はどうして僕を近侍になどするのでしょうか。今のように長谷部をわざわざ呼び付けるのならば、最初から長谷部を近侍にしていればいいだけの話。僕が、ただそこに有る事だけを好まないのは主も知っている筈なのに。もし、知っている上でこうしているのであれば、主も相当意地が悪い。いえ、いっそ悪趣味ですね。内心で毒突いている事など知りもせず、文机の上にあるカラクリに向かってしまった主が、こちらへ振り返る様子はない。暫くはこのままでしょうね。仕事熱心も宜しいですが、些か、不満です。僕は、貴方の近侍を務めているのですよ。そんな風にカラクリに向かって悩むくらいなら、僕に相談してくれたっていいじゃないですか。長谷部や薬研には相談する癖に、一体僕の何がいけないのでしょう。思わず溜め息が零れた。



「あ、そうだ。宗三だったらどうする?」
「はい?何の事ですか。今迄放っておいて。」
「ああ、ごめんね。最近、出陣ばっかりさせて疲れてるかと思って、あまり声を掛けないようにしてたんだけど、私一人じゃよく分からなくてね。」



くるりと振り返った主が困ったように笑っていました。今迄長谷部や薬研を呼んでいたのは、僕を気遣って、という事なのでしょうか。それならば、最初から非番にでもしてくだされば良かったのに。それとも、僕を側に置いておきたかったのでしょうか。いえ、それは流石に考えが飛躍し過ぎているかもしれませんね。自分がそう思いたいから、都合の良いように考えてしまっているのかもしれない。苦笑いを零している、のほほんとしたこの主が、そこまで気遣いの出来る人だとも思えませんし。貶すつもりはありませんが、あまり細かい事に頓着しない人ですから、僕がそんな風に思うのも仕方のない事ではありませんか。全く、人の考える事はよく分かりません。



「はぁ、なんですか?僕で良ければ、助言くらいはしますよ。」
「ありがとう!助かるよ。」



人の考える事はよく分かりません。だからこそ、僕が今感じている気分の高揚も、どうしてなのか分かりません。ええ、分かりませんね。都合の良いよう好き勝手に物を考えて気分が良くなっているなんて、そんな筈がありません。いそいそとカラクリを持ち上げて、僕に布陣の指示を仰ぐ主に悪い気はしませんが。まぁ、主の仕事が終わったら、労いの言葉くらいは掛けてあげてもいいのかもしれませんね。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -