刀剣達にセクハラする



「光忠って安産型だよね。」
「止めてくれないかい。」



台所で食器を洗う光忠の隣に立ち、私は食器を拭いていた。しかし、そうした単調作業というものは人間誰しも飽きがくるというもので、ぼうっとしながら、ちらりと視線を遣った先に光忠の体が目に入る。ジャージを着ているというのに、ダサいというよりは、そのジャージすら着こなしているといえる。足も長いし、引き締まった体はスタイルがいいと、誰しもが思う筈だ。そして、ある一点、お尻に目を遣ると、思わず冒頭の台詞が漏れた。光忠を見ると、少し恥ずかしそうに頬を染めて、わざとらしく咳き込んでいる。話しを逸らしたいといった様子が見て取れた。刀のくせに照れるところなのか、と疑問に思いながらも、しっかりと筋肉のついた健全な色気を感じるお尻を、じっと見詰める。どんなもんなんだろうか。このお尻は。恥ずかしそうに視線を逸らした光忠は食器を洗い続けているが、私は徐に手に持っていた食器と布巾を机の上に置き、光忠のお尻を掴んだ。



「わぁっ!?な、なに、してっ!?」
「うん、いい筋肉。なんていうの?弾力がある?」
「感想とかいらないよ!」



あわあわと慌てる光忠は余程驚いているのか、私の手を引き離す事もせず、水道の蛇口を止めたり、再び出したりしていた。その行為に意味があるのか。そんな事を考えながら、掴んだお尻を揉んでみたり、撫でてみたり。人のお尻を撫でるなんて事早々ないから比べようもないが、光忠のお尻は触り心地が良いのではないかと思う。構わず揉み続けていれば、光忠がぷるぷると体を震わせている。そんなに嫌か。釈然としないながらも手を離したら、振り向いた光忠がうっとりとした視線を寄越す。



「全く。いけない子だね、君は。」



なんだ、この如何わしい雰囲気は。そういう意味合いなど一切なかったのだが。はぁはぁ、と妙に息遣いが荒くなっている光忠を無視して、再び私は食器を拭く事に専念した。ちらちらと光忠がこちらを見て来たけれど、気にしたら負けだ。

***

「同田貫、ちょっとおいで。」
「あ?」



政府から支援物資が届いた。日用品であったり、食料であったり、私が頼んだ洋服だったり、まぁ、いろいろだ。その中で恐らく手違いだと思われる品物が入っていた。返品をする事も出来るが、書類を書くのが面倒臭い。私は使えないから、箪笥の肥やしにしても構わないが、どうせなら使った方が良いだろう。そう考え、部屋の前をタイミング良く通り過ぎて行った同田貫を呼び止めた。手招きをすると、同田貫は特に怪しむ様子もなく、どかどかと部屋の中に入って来る。



「同田貫にいいものあげる。じゃーん。」
「あ?なんだ?これ。」



ごそごそと荷物の中を漁り、例の物を取り出す。目の前に差し出してはみたが、同田貫はこれが何なのか分からないらしい。それもそうか。現代のボクサーパンツなど、馴染みがないだろう。手に取って訝しげに見詰める同田貫に、パンツだよ、と説明してもいまいちよく分かっていない様子で首を傾げている。



「私の時代の男性が使う褌だよ。」
「はぁ!?お、おま、お前っ!なん、で、そんなもん俺に寄越すんだよ!」
「丁度通り過ぎたんだもん。男物だから私穿けないし、同田貫にあげる。」




同田貫はボクサーパンツを握り締めてぷるぷると震えている。顔どころか耳まで真っ赤にして、口を何度も開け閉めして。そんなに恥ずかしい事だろうか。別に今そのボクサーパンツを穿けだとか、穿いてる褌を寄越せと言っている訳ではないのに。眉間に皺を寄せ、同田貫を覗き込むと、余計に顔を赤くしてしまう。



「お、お、お、女が男の褌なんて気軽に言うんじゃねぇ!!!」



どたばたと走って出て行ってしまったが、ボクサーパンツは掴んだままなので、そのうち穿いてくれるだろう。

***

「首を差し出せ!」
「ごめんなさい!」



やってしまった。歌仙が大事にしていた、私にはよく分からない壺を割ってしまったのである。悪気があった訳ではない。ただ、ちょっと歌仙のインナーがどうなっているのか見たくて、無理矢理歌仙の服を剥ごうとしたら、思いの外力の強かった歌仙に返り討ちにされてしまった。体を押し返され、よろけた先に壺があり、支えきれなかった体が壺に辺り、次いで、がしゃん、と割れる音がした。悪気はない。壺を割る気など毛頭ない。だが、頭に血が上っている歌仙に私の謝罪は届いていないようで、抜刀したまま追いかけてくるではないか。死んでしまう。必死になって走って逃げる私は、馬小屋の側にいる太郎太刀の姿を見つけた。確か、太郎太刀の側には馬の面倒を見る様に小さな掃除用具入れがあった筈。そこに隠れれば、一時的に難が逃れられるかもしれない。既に体力も限界な私は、困惑する太郎ごと掃除用具入れの中に押し入った。



「あ、主、一体何事ですか?」
「しっ!後で説明するから今だけは静かにしてて。」



狭い用具入れの中で、太郎は腰を折って慌てふためいている。その太郎を見上げる様に顔を上げ、唇に指を当てると、太郎は押し黙ってしまった。今にも空いてしまいそうな用具入れの扉にはらはらしながら、なるべく扉から距離を取る。外からは歌仙の怒鳴り声が聞こえた。



「……主、あの、少しばかり体を離して頂けませんか?」
「ごめん、ちょっとだけ我慢して。扉が開いたら見つかっちゃう!」



申し訳ないと思いながら見上げれば、暗がりでも分かるくらい顔を赤くした太郎が目をぐるぐると回している。なぜ。風邪でも引いているのか。最初こそ、そう思っていたのだが、動ける範囲で手を動かしぺたぺたと触ってみても特別熱いという訳ではない。しかし、私が手を動かす度に太郎は小さく止めてくださいと言いながら、体温を確実に上げていた。だから、私は気が付いてしまったのだ。太郎は私に触れられることが、恥ずかしいのではないか、という事に。一度、気付いてしまうと、どうにも悪戯心がむくむくと沸いてくる。太郎の腰に腕を回して、ぎゅ、と抱き着いてみると、一瞬体が跳ねた。がたん、と揺れる用具入れに、歌仙が気付いてしまうのではないかと気が気ではないが、声が遠ざかる辺り、平気だろう。



「あ、あるじ……。」
「しぃ。静かに。」



思わず、にやりと笑ってしまいそうになるが、どうせ見えてはいないのだから構わないだろう。太郎の足の間に私の足を滑り込ませると、咎めるように主、と私を呼ぶ。だが、そんな言葉に耳を貸す程、私は優しくない。わざとらしく足を動かせば、大袈裟なくらいに体が跳ねて、私の肩に手を置く太郎が私の体を無理矢理引き剥がされた。



「何を考えているんですか、貴方は……っ!」
「言わせたいの?」
「……そうではありません。もう歌仙の声も聞こえませんし、早く出ましょう。」



存外、冷静だ。私を窘める様な口調に、釈然とはしないが、歌仙の声が遠ざかっているのは事実。それに、これ以上先をするのならば、この場所では無理がある。仕方なしに用具入れから外に出れば、しかしながら、普段張りつけた様な無表情が崩れ、真っ赤な顔は気分が良い。太郎の側に寄って、着物を掴み耳元に唇を寄せる。一瞬、驚いた表情が目に映って余計に気分が昂った。



「私の体、どうだった?」



用具入れの中の事でも思い出したのか、一瞬にして茹でダコのようになって固まってしまった太郎が可笑しくて、もっとからかってやりたかったが、歌仙の声が再び近づいてきたので、私はその場を後にした。




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