鬱グロ以外で鶯丸



「他の奴等には言い触らすなよ?」



完成した刀装を腕に抱え、倉に運びながら鶴丸さんが弾んだ声で言う。突然なんの話しだろうか。無言のまま、鶴丸さんを見上げたら、ちゃんと前を見て歩けと怒られてしまった。誰のせいだと思ってるんだ。少しだけ釈然としないまま、刀装を抱え直し前を見て歩くと上から弾んだ声が降ってくる。



「見事な特上だろう?」
「そうですね。そういえば、鶴丸さんは最初の頃、刀装作るのが苦手だったのに凄い上達ぶりで。」
「そうなんだ。刀装作りなんて細かい作業は好きじゃなかったんだがな、鶯丸にコツを教えてもらったんだ。」



意外な名前を聞いた。刀装作りだけでなくとも、歌仙や光忠は手先が器用で、料理や裁縫なんかを率先してやってくれる。他にも、出陣となれば長谷部や一期さん、刀装作りとなれば三日月さんや石切丸さんが上手で、何かあれば、だいたい上記の人達に頼っていたと把握していた。だからこそ、頼るなら今挙げた子達だろうと考えていたのだが、鶯丸とは意外だった。思わず鶴丸さんを見上げると、また前を見て歩けと怒られた。



「意外です。でも、よくよく考えると、鶯丸さんも器用でしたね。」
「ああ。鶯丸には俺も良く世話になっててな。だからな、主。君も困った事があれば、鶯丸に相談するといい。俺の相談相手がいなくなると困るから、他の奴等には内緒で頼む。」



どきり、心臓が跳ねた。鈍い動きで鶴丸さんを見上げると、今度は叱ったりせず、乱暴に頭を撫でられる。悩んでいるといえば、悩んでいるのかもしれないが、思い詰めている訳ではない。ただちょっと、ここ最近の自分の布陣に思うところがあるのは確かだ。戦績が上げられなければ、政府からお小言を食らう。しかし、錬度を考えれば無理をさせるにも限界がある。それに、私の為に皆頑張ってくれている。これ以上頑張らせるのは気の毒と言うものだ。この話を誰かにした事はない。そういった込み入った事を含めて考えるのが、審神者である私の役目なのだから、相談をするのはお門違い、そう思っていた。だが、こんなにも簡単にバレてしまうようならば、それとなく相談した方が自分の為かもしれない。倉に刀装を運び込み、内番へ戻る鶴丸さんを見送って、私はそのまま鶯丸さんのいるであろう縁側へと向かった。



「少し、いいですか?」



庭に面している縁側は、気付けば鶯丸さんの指定席となっていた。今日も今日とて、その縁側でお茶を飲みながら、のんびりとしている様子。その隣に腰を掛けてみれば、了承の返事と共に、お茶を出してくれた。鶯丸さんから湯呑を受け取り、一口飲み込む。どこから買ってきているのか分からないが、とても美味しい。ちらり、鶯丸さんを見遣ると、私の方を見ながら小首を傾げ、感想を待っているようだった。



「美味しいです。」
「そうか。なら、良かった。」



一瞬、目元が緩んだように見えた。少し前までは肌寒かった筈のこの場所も、今では初夏の暖かさに包まれ、肌に当たる風が心地良いとすら思える。お茶を飲みながら、特に何を話すでもなく、ぼうっと風に揺られる木々を見詰めた。相談があって鶯丸さんの元に来たはいいが、いざ相談しようと思うと言葉が出てこない。だいたい、いくら鶴丸さんに言われたからと言えど、突然来て、突然相談するなんて、鶯丸さんだって反応に困るだろう。やっぱり、相談するのは止めよう。お茶を飲んだら、いつも通りに執務に戻らなければ。漏れそうになる溜め息を、お茶を飲む事で誤魔化した。



「急がなくてもいいと、俺は思うぞ。」
「え?」
「周りが何と言おうと、考えがあるなら好きにやるといい。他人の言葉なんて気にする必要はないさ。」



思わず、その横顔を見上げた。鶯丸さんはいつものように、のんびりした動作でお茶を飲んでいるが、一瞬、私へと視線を寄越し、微笑んだ。案外、私が隠している事など、周囲にはバレバレで、話してくれるのかを待っているのかもしれない。そう思うと、今迄一人で抱えてきた事が馬鹿みたいだ。鶯丸さんの言葉に、一気に心が軽くなっていく気がした。



「そう言って頂けると、心強いですね。」
「信念がある者には自然と皆がついて行く。その者を支えるのは俺達の役目でもある。なに、俺の主の事だ。皆ついて来てくれるさ。」



思わず、私の頬も緩む。鶯丸さんが内番をサボっても、次ばかりは見逃してあげよう。揺れる木々が心地よかった。




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