攻め主♀で長曽祢さん現パロ



長曽祢さんが苦手だ。気に掛けてくれるのは嬉しいが、如何せんお節介過ぎると思っている。仕事の進み具合を聞いてくれるのは構わないけれど、いちいち子供のように頭を撫でるのは止めて欲しいし、やれ髪を切っただの、服装が変われば彼氏が出来ただの、まるで女のように変化にいちいち煩い。普通は嬉しいのかもしれないが、私は細かい事で騒がれるのが嫌いなのだ。極力、長曽祢さんを避けて生活したいが、彼は私の上司にあたり、周りからの人望も厚く、無理な話である。お陰で、日々悶々としながら過ごしている訳だ。



「お、今日は遅くまで残ってるな。」
「えぇ、まぁ。仕事が溜まってたので。」



長曽祢さんを極力避けるには、残業など以ての外。出来る限り定時退社をしてきたが、そうもいかない時だってある。自分のデスクに乗っている書類の束を見詰めながら、溜息が漏れた。長曽祢さんは普段も結構遅くまで残っているようなので、あまり遅くまで残りたくないのが本音である。話し掛けられない様、必死にパソコンを睨みつけ、ひたすら手を動かした。それからどれだけの時間が経ったのか分からないが、今日中には終わらないだろうと判断し、今日はもう帰ろう。そう決意してデスクの上を片付ける。そういえば、今日は珍しく長曽祢さんがちょっかい掛けてこなかったな、なんて思いながら、ちらりと長曽祢さんのいるデスクに目を向けた。しかし、そこにいる筈の人物は何時の間にかいなくなっており、もしかして帰ったのだろうか、などと不思議に思っていた。次の瞬間、首筋に冷たい何かが当たって体が跳ね上がった。



「ひぇっ!?」
「だらしない声だな。」
「な、長曽祢さん!」



振り返ると、缶コーヒー片手に大声で笑う上司がいるではないか。どうやら、この缶コーヒーは私にくれるようで、笑いながら私のデスクの上に置かれた。少し嬉しいけれど、何時までも笑われているのは心外である。誰だっていきなり首に冷たい何かが当たれば変な声も上げたくなるだろう。疲れもあり、眉間に皺を寄せていれば、ようやく長曽祢さんが笑うのを止めた。



「いや、すまないな。お前さんも、そんな声出るのかと思うと可笑しくてな。」
「……そうですか。では、これは頂いていきますんで。お先に失礼します。」



私だって人間なんだから変な声くらい出るわ。急いでデスク周りを片付け、ロッカーに荷物を取りに行こうと立ち上がる。すると、勢い良く肩を掴まれ、これまた勢い良く椅子へと戻されるので驚いて長曽祢さんを見上げた。



「なんですか?私帰りたいんですが。」
「そうカッカするな。短期は損気だぞ?」



誰のせいだと思っているんだ。既に苛立ちが隠しきれず、長曽祢さんを睨みつけるも、彼は余裕綽綽と言わんばかりに口角を上げて、楽しそうに私を見下ろしている。それが何だか余計に腹立たしくて、今までの疲れや苛立ちが頂点に達してしまった。彼のがら空きになっている足を踏み付けて、よろけている内にその肩をちょっと後ろへ押してやる。すると、長曽祢さんは意図も簡単に後ろへと倒れ込む。いくら何でも怪我をさせる気などはない。だからこそ、長曽祢さんが受け身と取れるだろう事は想定していてやったし、その後素早く体を起こす事も考えられたので、起きあがれない様、腹の辺りに座って、所謂マウントポジションを取る。すっかり驚いて目を見開いている長曽祢さんに、少しばかり気分も晴れつつ、顔を近付ける。



「毎日毎日、部下をからかうのがそんなに楽しいですか?それなら、加州や堀川にしたらどうです?貴方の事、大好きなんですからきっと喜んでくれますよ。」
「こいつは驚いたな。予想以上だ。」



長曽祢さんは少し驚いていたけれど、相変わらず口元は笑っている。嬉しい事が隠しきれないような、そんな顔だ。部下にマウントポジション取られて、睨み付けられて馬鹿にされて、どうして笑っていられるんだ。更に眉間に皺を寄せれば、私を見る金色の目が普段と違う事には直ぐ気が付いた。熱を孕んだ、どこかぼうっと浮かされているような、そんな目だ。咄嗟に顔を引き離したが、私の気が収まった訳ではない。相変わらず長曽祢さんの腹の上に乗ったまま、彼を見下すように睨みつけた。



「何なんですか、貴方。」
「嬢ちゃん、俺が嫌いだろう。だから、いいんだ。」



意味が分からない。私はただ長曽祢さんを睨んでいるだけで、色目を遣っている訳でもなければ、周りのように彼を慕ってにこにこ笑っている訳でもない。それなのに、ただ睨んでいるだけの部下の何が良いというんだ。しかし、私を見上げる金色の目を見ていると、自然、不快だとは思えなかった。こうしてマウントポジションを取っているのも、蔑んでいるのも、どこか心地が良い。今までの鬱憤が溜まっていたからか、上司という目上の立場を懲らしめている優越感か、分からないけれど、私の気分は確実に高揚していた。



「部下に睨まれるのがそんなに嬉しいですか。」



ほとんど独り言のように、ぼそり、と呟いた。それなのに、その独り言はしっかり聞かれていたようで、私を見詰めて離さない。金色の目が淡く揺れて、呆けているようにすら見える。そうして、私はようやく理解した。この人は、そういう類の人だ。そして、認めたくはないけれど、私はそういう人を蔑んで、見下して、そして快感を得る人間だという事も。それが余計に憎らしい。こんな、どうしようもない事実を突き付けてきた事が腹立たしい。だから、感情のままネクタイを引っ張って上半身だけを無理矢理起こさせた。



「悪趣味。」



彼がとても嬉しそうに笑うものだから、取り繕っているのも馬鹿らしくなって、私も口角を上げた。




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