怒られたい長谷部



自分は人を斬る道具なのだから、もっと好き勝手に扱ってくれて構わない。長谷部は口癖のように言う。別に、長谷部がそう思うのは構わない。どんな感情であれ、それが長谷部という人格を形成しているのならば、私がとやかく言う問題ではない。しかし、その感情を押し付けられるというのは、また別の話である。自分を物のように扱って欲しいと言うが、こうして人間の姿をしている以上、情が湧く訳で、少なくとも私には無理な話だ。そもそも、道具として扱って欲しいのならば、要求などして来ないで欲しい。幾度目になるか分からない溜息を吐き出した。



「何度も言うけど、それは無理だよ。」
「ですが、主。俺は刀剣です。人を斬る道具です。それ以上でも以下でもありません。」
「そうは言うけど、実際に私が戦場に行って刀を振るってる訳じゃないし。何がそんなに気に入らないの?」



その顔を見れば、不満があるというよりは、切実な頼み事と捉えた方が正しいかもしれない。しかし、長谷部の要求は如何せん無理がある。道具として扱って欲しいという感情を私が理解する事は多分一生出来ないし、もしかしたら長谷部もこれから先ずっと、私の考えなど分からないかもしれない。だからこそ、この言い争いは不毛だ。苛立つ自分を抑えきれず、つい睨みつけてしまうのも、仕方ないと思いたい。



「……っ!俺は、ただ、道具として、貴方のお側に……。」



じっと睨み付けていれば、徐々に言葉尻が小さくなって、最後は口を噤んでしまう。例え、長谷部が道具であろうと人間であろうと、有能ならば側に置く。もし、弱くて使えなかったとしても、それは私の問題で長谷部の問題ではない。審神者とは、そういう役割を背負っているのだ。どうやら、長谷部はそれが分からないらしい。はぁ、と溜息を吐くと、視界の端に映る長谷部の体が小さく跳ねているのが分かった。怒ってはいないけれど、呆れてはいる。確実に。しかし、私が冷めた視線を遣れば遣るほど、溜息を吐けば吐くほど、長谷部はその目をとろん、とさせて盗み見る様に何度もその目で私を見る。呆れられているのに、長谷部にとっては怒っていると捉えられても可笑しくない筈なのに、その目はどこか嬉しそうで、所謂、欲情しているとも言えた。



「本当に道具なら、そんな顔しないでしょ。変態。」



一瞬、その体が震えているのを見た。結局のところ、自分を道具として扱う云々はただの口実に過ぎず、私に怒られるなら、蔑んだ視線をもらえるなら、冷たい言葉をもらえるなら、それで構わないのだ。だからこそ、この不毛な遣り取りが下らなくて仕方ない。こんな風にあしらう事も、苛立つ事も、長谷部の思う壺なのだけれど、私は自分の感情に素直なのだ。また一つ、溜息を漏らしてパソコンへと向き直った。後ろにいる長谷部の息遣いが、少し荒くて気になった。




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