思い違い



ぽかぽかと暖かな陽気が立ち込める部屋の空気は、もうお昼寝をするしかないくらい出来上がっている。時計を見れば14時を過ぎており、通りで眠い訳だ、と責任転嫁してみたり。ごろん、と畳の上に横になると、強ばっていた体が解れるのを感じる。目を閉じると、どこからともなく子供のはしゃぐ声が聞こえて妙に落ち着く。少しだけ寝てしまおう。今迄座っていた座布団を二つにおって枕にし、仰向けになって体を伸ばす。今日の近侍は長谷部だから、少し寝たって怒られない。これが光忠や歌仙では、そうもいかない。怠けちゃ駄目どとか、みっともないだとか、いろいろ小言を言われてしまう。寝る私が悪いのだけども。勿論、滅多な事では寝ないけれど、長谷部は怒らないし、小言も言わない。だから、ついつい気が緩んで、陽気な昼下がりは眠くなってしまう。他の子に言われると、人によっては怒られてしまうから、内緒にしてもらうように伝えているけれど。少しだけ、ほんの少しだけ。そう自分に言い聞かせているうちに、徐々に意識が薄れていった。

***

ゆらゆらと揺すられているような感覚に意識が戻ってくる。まだ寝ていたいという気持ちが邪魔をして、出来る限りゆっくりと瞼を持ち上げると、傍らには長谷部が座っていた。そういえば、書類を書く為に幾つか本を蔵から持ってくるように頼んでいた。証拠に長谷部の座る傍には幾つか古めかしい本が置いてある。それはさておき、一体どれくらい寝ていたのだろうか。外ではしゃぐ子供の声は聞こえなくなっていた。



「……あれ、寝てた?」
「はい。一時間程。」
「一時間!?」



まさかそんなに寝ていたとは。一気に目が覚めて飛び起きた。それと同時に口の周りが何だか気持ち悪い事にも気が付いた。触ってみると、涎なのか何なのか口の周りが濡れていて、慌てて服の袖で拭う。もしかして、口を開けて寝ていたのだろうか。それを長谷部に見られた?起きた時に傍らにいたのだから、確実に見られているだろう。恥ずかし過ぎる。長谷部も起こしてくれれば良かったのに。いや、でも、寝汚い事は私を含め他の刀剣達も知ってるし、起きないと思われたのだろうか。思われたんだろうな。恥ずかしい。恥ずかしくて長谷部の顔なんて見れない。



「たった一時間ですよ。職務ならば俺もお手伝いします。」



にこりと笑う顔が余計に羞恥心を煽る気がする。いっそのこと、だらしない口を塞いでくれたら良かったのに。手で抑えるとか、いっそ適当に本を顔の上に被せてくれたっていい。そうだ。何でもいいから、口を塞いでくれたら良い。何でも。



「あ、ありがとう。あのさ、出来れば、なんだけど。」
「はい。何でしょう。」
「も、もし今度口を開けて寝てるような事があったら、塞いで欲しいな、って。」



ちらりと長谷部を盗み見ると、心底驚いたような顔をして私を見詰めている。何馬鹿な事を、とでも思われているのだろうか。流石にそこまで面倒見切れないとか、それくらい自分で何とかしろとか、思われているのかもしれない。当たり前か。いくら長谷部が優しいからといって、甘え過ぎてはいけない。長谷部だって、ある意味これはビジネスみたいなもので、内心ではいろいろと私に思うところがあるだろう。ちらちらと様子を盗み見たところで、唖然としたままの長谷部から返事は返って来ず、何度か名前を呼んでみても、結果は同じ。ああ、言わなければ良かった。しょんぼりと落ち込んでいたが私だが、次の瞬間、そんな事はどうでも良くなった。



「喜んで拝命致しましょう!」



今迄聞いた事ないくらい嬉しそうな声で、思わず顔を上げてしまった。その声に反して、笑顔がどこか歪んで見えるのは私の気のせいだろうか。




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